休眠担保権の抹消②

前回からの続き

 

数十年前の登記簿上の住所から、現地を調べて訪問したところ、抵当権者と同じ苗字の表札を発見し、抵当権者もしくはその家族が居住している可能性が高いと考えられたため、早速その住所宛に手紙を出してみました。

 

が、手紙を出してしばらくしても一向に連絡はありません。再度書留で送ってみましたが、不在・保管期間経過で戻ってきてしまいました。

 

仕方ないので再度現地を訪問し、直接呼び鈴を鳴らしてみましたが、全く反応はなし。ふと見ると、横の郵便ポストにはかなり郵便物が溜まっており、中に人がいる気配もありません。

 

仕方なく、隣家の方に尋ねてみたところ、1年ほど前までは住んでいたが、おそらく亡くなられた?ためそれ以降誰も住んでいない、とのこと・・・

 

これは予想外でした。抵当権者もしくはその家族が住んでいれば、その方に事情を説明し、仮に抵当権者が亡くなっていたとしても、家族構成を確認して、相続人の方に協力をお願いすれば手続できると思っていましたが・・・1年前に亡くなられたというのが抵当権者本人なのかそのご家族の方なのかはわかりませんが(この住所地で抵当権者の住民票は取得できなかったことから、抵当権者本人ではない可能性が高い)、いずれにしてもこの時点での手掛かりがなくなってしまいました。
その後、裁判手続きによるしかないかと思い、その準備を進めながら、できる限りの調査も並行して継続していたところ、偶然にも、運よくこの抵当権者の一族と思しき方と繋がることができ、奇跡的に、その方を頼りに抵当権者の家族関係を明らかにすることができました。結果、やはり抵当権者の方も30年以上前に亡くなられており、その子どもも10年ほど前に他界していて、こちらの相続関係もなかなか複雑だったのですが・・・
最終的には、相続人全員の方と直接会って事情の説明ができ、手続に協力してもらえることととなりました。
当然、当時の事情などは誰も知らず、抵当権の権利書などの書類もなかったため、相続人の方々全員と直接面談し、本人確認情報を作成し、書類には実印を押してもらって印鑑証明も頂かなければなりません。そもそもちゃんと完済しているという証拠すらないのですから、なかなかデリケートなお話でしたが、どうにか全員にご納得頂き、書類を作成して登記申請したところ、特に補正もなくすんなりと完了してくれました。
なかなかシビアな案件でしたが、無事完了してほっとしています。

 

抵当権の抹消は、費用もさほど掛からない(実費数千円、専門家に依頼しても通常は1~2万円程度)、そんなに困難な手続ではありませんが、時間が経つとかなり複雑化する可能性があります。特に、個人での融資に担保権を設定している場合などは、相続が絡むと大変な手間になることもあります。そして、どんなに大昔の担保権であっても、登記上記録が残っている以上は、まず間違いなくまともには売ることはできません。

 

たかが抹消、されど抹消。手続にお困りの場合は、登記の専門家である司法書士にご相談されることをお勧めします。

 

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休眠担保権の抹消①

先日ご依頼頂いていた、相続登記と個人の抵当権抹消登記が、およそ半年がかりで無事終了しました。

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こちらの不動産、所有名義は昭和30年代に亡くなられた方のまま、さらにそこに、昭和35年に設定した個人の方の名義の抵当権が残ったままという、若干複雑なものでした。

 

相続登記の方は、名義人の方の子ども孫も亡くなっていましたので、現在の相続人の方の数も多く、これはこれで大変だったのですが、相談者の方が相続人のうちの1人ですので、そこから戸籍をたどっていき、連絡を取ってなんとか皆様の承諾をもらって名義変更できました。
が、問題は個人名義で設定された抵当権の方でした。

 

そもそも担保設定自体が60年も前の話ですので、当然相談者の方は当時の事情もわからず、抵当権者の名前を聞いても全く心当たりはありません。手掛かりと言えば、登記簿上に記載された住所と氏名のみ。しかし、それでもなんとかこの担保を消さなければ売ることもできません。
このような、数十年前に設定されて、現在ではすでに効力はない(完済していたり、時効にかかっていたりで、返済の義務はない)と思われるものの、登記上は権利が残ったままになっているものを総称して「休眠担保権」と呼びます。この休眠担保権を抹消するための方法はいくつかあり、この分野だけで書籍が発刊されるほど、実はやっかいな問題でもあります。
抵当権者が金融機関の場合、合併や解散で、当時の会社がなくなっていたとしても、商業登記簿謄本などから会社の変遷をたどることができますし、そこから当時の清算人の方や、現在の存続会社に連絡を取って抹消に協力してもらうことが可能です。場合によっては、裁判所に特別代理人の選任申立を行ってから抹消します。
ところが、抵当権者が個人の場合、そもそも相手方を探し出すことすら困難です。手掛かりが担保設定時の住所と氏名しかない上、住民票は、その方がそこから住所を移転させたり、亡くなったりすると、原則5年で廃棄されてしまうため、何十年も前の住所氏名だけでは、住民票を取得することもほぼできません。昔は、住所イコール本籍地としていた方も多いため、登記簿上の住所をもとに戸籍を取得することもできますが(戸籍は住民票よりも保管期間が長いため、時間が経っても保管されている可能性が高い)、本籍地と住所が違う場合はこれも無理です。
そうなると、登記簿上の住所地である現地を訪問し、本人もしくはその家族(子孫?)が居住していないかなどを実際に調べる必要があります。その結果、完全に行方不明であれば、抵当権者行方不明を理由に、供託金を収めて抹消行方不明の抵当権者を相手取って訴訟を提起して抹消などの方法によることとなります。
①の場合、ざっくりいうと、当時から現在までの利息・遅延損害金を全額供託(=法務局に預け入れ)しなければなりません。
設定当時の金額が数百円とか千円程度であれば、上記を計算しても大した金額にはならないのですが(物価や貨幣価値の変動は考慮しません)、今回は、設定金額が●十万円であったため、この方法だと軽く数百万円を供託しなければならないこととなり、事実上困難でした。
そこで、登記簿上の住所地(現在は存在しない番地であったため、現在の番地表記を調査した上で)を訪問してみたところ、そこには抵当権者と同じ苗字の表札が・・・家自体もかなり年季が入っており、相当以前から住まわれていたのではないかと思われます。これは、抵当権者もしくはその家族が現在でも居住している可能性が高いと思われました。その場合、仮に抵当権者が亡くなっていても、相続人の方々に協力してもらえれば、抹消手続きは可能です。一筋の光が見えたと思ったところ・・・
長くなりましたので次回に続きます。

 

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相続登記を放置すると…

本日相続登記の相談で来られた依頼者の方。田舎にずいぶん長いこと名義を変えていない土地があるので、名義変更をお願いしたいとのこと。

聞くと、お父様が亡くなられたのをきっかけに、田舎の不動産を整理したいと考えたらしいのですが、その際に、お祖父様以前の名義になったままのものがあったとのこと。それもできれば一緒にやってしまいたいとのことでしたので、お持ち頂いた資料をもとに、登記簿謄本を確認したところ…

 

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明治22年1月22日登記
原因 遺産相続により
(以下省略)
との記載が…

なんと、ここに記載された所有者の方は、依頼者(50代)のお祖父様どころか、そのお祖父様、つまり、依頼者の方からみると、4代も前の方(曾祖父の父なので、高祖父といいます)だったのです。明治22年というと、西暦1889年ですから、今からなんと130年近く前、当時この方が30歳とすると、生まれは当然江戸時代ということになります。依頼者の方も、全く名前を聞いたことがない、もはやご先祖様というに近い方の名義のままになっていました。
さすがに4代前からとなると、依頼者の方も、相続関係すら把握できておらず、相続人が何人になるのか、見当もつきません。

大正~昭和初期の頃は、たいていごきょうだいが多く、戦争等で若くしてお亡くなりになる方も多かったため、養子縁組なども頻繁に行われていた時代です。実際に、依頼者のお父様は6人きょうだい、お祖父様は7人きょうだいであったとのことです。今回のケースでは、さらにそこから2代もさかのぼらなければならず、当然数次相続もかなりの数発生しているでしょうから、おそらく現時点での相続人の数は、少なく見積もっても数十人、下手をすれば100人を超えることも考えられます。

 

こうなってしまうと、それらの方々全員を探し出し、連絡を取り、事情を説明し、納得してもらって印鑑をもらう、というのは、現実的には不可能に近いと言わざるを得ません。しかし、仮にこの不動産を売却等される際には、亡くなった方の名義のままでは売れませんから、現行法上は、必ず相続登記が必要になります。それが事実上不可能となると、結局どうすることもできなくなってしまいます。

 

また、別の不動産には、大正初期に設定された抵当権がそのまま残っており(大正2年設定、債権額金110円)、おそらくこれも抹消するとなると、休眠担保権の抹消の手続きをとらざるを得ません(不可能ではありませんが、供託等が必要になり、別途費用が発生します)。

 

費用がどれぐらいかかるかをご心配されていましたが、正直なところ、なかなかすぐに費用の概算を出すことすら難しいケースであるというお答えしかできませんでした。

※相続関係が複雑すぎるため、手続きに必要な戸籍等を収集するだけでも膨大な数にのぼることが予想され、かつ、一部の相続人とは連絡すらつかない可能性も十分に考えられるため。
幸いにも、今すぐにご売却の予定があるというわけではないとのことでしたので(というか、今すぐの売却は不可能ですが…)、上記を説明した上で、いったんご検討いただくことになりました。
不動産登記制度は、明治5年に「地所永代売買解禁」の布告によって、土地の所有が認められたときにはじまり、明治19年に制定された旧登記法に基づく制度です。そのため、今回のケースなどは、登記法制定初期の頃に登記されて以降、ほぼそのまま放置されていたことになります。

 

これが建物であれば、取り壊すことが可能ですから、相続登記をしないまま取り壊して滅失ということも不可能ではありません。しかし、土地は半永久的になくなるものではないため、どこかで相続登記をしない限りはどうすることもできません。しかし、それが現実的に不可能となると…

 
おそらく今後、地方を中心にこういった事態は増えてくると思います。その時に、資産流通性を重視して、現行の相続登記を省略・簡便化するような手続きを認めざるを得ないという時代が来るかもしれませんが…
何はともあれ、今回のケースほどではないにしろ、相続登記を放置すると、いざという時には手続きが非常に困難で、時間も費用もかかる、という事態になる可能性は十分にあります。身近に、実態に即していない名義のままになっている不動産がある場合は、お早目に司法書士にご相談されることをお勧めします。

 

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※今回の記事は、写真も含めて、依頼者の方のご承諾を頂いた上で公開させて頂きました。