本日相続登記の相談で来られた依頼者の方。田舎にずいぶん長いこと名義を変えていない土地があるので、名義変更をお願いしたいとのこと。
聞くと、お父様が亡くなられたのをきっかけに、田舎の不動産を整理したいと考えたらしいのですが、その際に、お祖父様以前の名義になったままのものがあったとのこと。それもできれば一緒にやってしまいたいとのことでしたので、お持ち頂いた資料をもとに、登記簿謄本を確認したところ…
明治22年1月22日登記
原因 遺産相続により
(以下省略)
との記載が…
なんと、ここに記載された所有者の方は、依頼者(50代)のお祖父様どころか、そのお祖父様、つまり、依頼者の方からみると、4代も前の方(曾祖父の父なので、高祖父といいます)だったのです。明治22年というと、西暦1889年ですから、今からなんと130年近く前、当時この方が30歳とすると、生まれは当然江戸時代ということになります。依頼者の方も、全く名前を聞いたことがない、もはやご先祖様というに近い方の名義のままになっていました。
さすがに4代前からとなると、依頼者の方も、相続関係すら把握できておらず、相続人が何人になるのか、見当もつきません。
大正~昭和初期の頃は、たいていごきょうだいが多く、戦争等で若くしてお亡くなりになる方も多かったため、養子縁組なども頻繁に行われていた時代です。実際に、依頼者のお父様は6人きょうだい、お祖父様は7人きょうだいであったとのことです。今回のケースでは、さらにそこから2代もさかのぼらなければならず、当然数次相続もかなりの数発生しているでしょうから、おそらく現時点での相続人の数は、少なく見積もっても数十人、下手をすれば100人を超えることも考えられます。
こうなってしまうと、それらの方々全員を探し出し、連絡を取り、事情を説明し、納得してもらって印鑑をもらう、というのは、現実的には不可能に近いと言わざるを得ません。しかし、仮にこの不動産を売却等される際には、亡くなった方の名義のままでは売れませんから、現行法上は、必ず相続登記が必要になります。それが事実上不可能となると、結局どうすることもできなくなってしまいます。
また、別の不動産には、大正初期に設定された抵当権がそのまま残っており(大正2年設定、債権額金110円)、おそらくこれも抹消するとなると、休眠担保権の抹消の手続きをとらざるを得ません(不可能ではありませんが、供託等が必要になり、別途費用が発生します)。
費用がどれぐらいかかるかをご心配されていましたが、正直なところ、なかなかすぐに費用の概算を出すことすら難しいケースであるというお答えしかできませんでした。
※相続関係が複雑すぎるため、手続きに必要な戸籍等を収集するだけでも膨大な数にのぼることが予想され、かつ、一部の相続人とは連絡すらつかない可能性も十分に考えられるため。
幸いにも、今すぐにご売却の予定があるというわけではないとのことでしたので(というか、今すぐの売却は不可能ですが…)、上記を説明した上で、いったんご検討いただくことになりました。
不動産登記制度は、明治5年に「地所永代売買解禁」の布告によって、土地の所有が認められたときにはじまり、明治19年に制定された旧登記法に基づく制度です。そのため、今回のケースなどは、登記法制定初期の頃に登記されて以降、ほぼそのまま放置されていたことになります。
これが建物であれば、取り壊すことが可能ですから、相続登記をしないまま取り壊して滅失ということも不可能ではありません。しかし、土地は半永久的になくなるものではないため、どこかで相続登記をしない限りはどうすることもできません。しかし、それが現実的に不可能となると…
おそらく今後、地方を中心にこういった事態は増えてくると思います。その時に、資産流通性を重視して、現行の相続登記を省略・簡便化するような手続きを認めざるを得ないという時代が来るかもしれませんが…
何はともあれ、今回のケースほどではないにしろ、相続登記を放置すると、いざという時には手続きが非常に困難で、時間も費用もかかる、という事態になる可能性は十分にあります。身近に、実態に即していない名義のままになっている不動産がある場合は、お早目に司法書士にご相談されることをお勧めします。