先日ご相談に来られた依頼者。つい最近になって債権回収会社から督促が来るようになったとのこと。「法的手続きの準備に入らざるをえません」との文言に驚いて、急いで相談に来られました。
督促状を確認すると、ちゃんと法務省の許可を受けた債権回収会社(サービサー)であり、いわゆる架空請求の類ではなさそうです。また、本人に事情を確認すると、全く身に覚えがないというわけでもなさそうでした。もともとはとある信用金庫からの借入れのようですが、10年近く支払いができておらず、その間に保証会社を経て、回り回って今回のサービサーにいきついたようでした。当然支払っていなかった期間の利息・損害金も加算されているため、請求額はものすごい額になってしまっています(合計すると元金の軽く数倍です)。
同じようなケースは過去何度も見てきましたが、このような場合に、
「今まで何も言わなかったのに、急にこんなものすごい額の請求をせてくるなんて非常識だ!!」
と、非常に憤慨される方がいらっしゃいますが、これについてはある程度は致し方ありません。
事情はそれぞれあるにしろ、完済に至らずに放置していた以上、その間の利息や損害金が加算されることはやむをえません。借りている方は「期日までに返済する義務」がありますが、貸している方には「督促をする義務」はないからです。にもかかわらず、上記の理屈を振りかざしてしまうと、いわゆる「逆ギレ」にしかなりません。
今回の依頼者はそんなことはなく、督促が正当なものであること、自身にも身に覚えがあることがはっきりすると、非常に恐縮されていました。ただし、現在の生活には余裕はなく(パート収入のみで、生活保護基準ぎりぎりの生活)、とても支払う余裕はないとのこと。
督促状を見る限り、最終返済日から約9年ほどが経過しているようです。また、「法的手続きの準備」とあることから、まだ裁判はされていない(債務名義はとられていない)可能性は十分にあります。つまり、消滅時効を援用すれば、支払義務を免れる可能性があります。
一般的な貸金業者や銀行からの借入れの場合、いわゆる商事債権ですので、時効期間は5年です。これを当てはめれば、今回は時効にかかっている可能性は高いといえます。
ただし、今回はもともとが信用金庫からの借入れなので注意が必要です。
信用金庫からの借入れについては、最高裁により、商事性が否定されており(最高裁第三小法廷昭和63年10月18日判決)、5年の消滅時効の適用はありません。すなわち、民法が適用されることとなり、時効期間は10年ということになります。
この考えに基づくと、今回のケースではまだ時効期間は経過しておらず、時効援用によって支払いを免れることはできません。
ただし、今回は、依頼者が当時営んでいた自営業の運転資金として借り入れたとのことでした。この点につき、信用金庫からの借入れであっても、借主が商人(いわゆる事業者)である場合は、信用金庫側の貸金返還請求権は、「商行為によって生じた債権」ということになり、やはり5年の消滅時効にかかることになります。このあたりの判断を間違えてしまい、時効援用できないにもかかわらずできると説明してしまったり、本来なら時効援用できるにもかかわらずそれを見逃してしまったりすると、依頼者の被る不利益は計りしれません。
要約すると、
☆貸金業者、銀行からの借入れ → 時効期間は5年
★信用金庫からの借入れ → 時効期間は原則10年
※ただし、借主が事業者で、事業資金として借り入れた場合は5年
ということになります。
これによると、今回の請求は、相手方はもともと信用金庫ですが、事業資金の借入れということで、5年の消滅時効援用でカタをつけられるかもしれません。
万が一サービサーが争ってきた場合でも、依頼者の現状を鑑みると、自己破産を選択すれば支払義務は免れることができると思いますが、時効援用で済めば、依頼者の精神的、経済的負担も最小限で済みます。
ひとまずサービサー側にも状況を確認した上で、依頼者にとって最適な方法を検討していきたいと思います。