過払い訴訟の争点の1つに「債権譲渡」があります。
ある会社との取引が利息制限法超過利率での取引だった場合、取引途中でその債権が別の会社に譲渡されたというケースにおいて、譲受会社にいくら支払わなければならないか、途中で過払いになった場合に、どちらの会社に請求ができるか、といった問題です。
この問題は、債権譲渡時点において、取引がすでに過払いになっていたか否かで大きく変わってきます。以下、もともと取引のある会社をA社、A社から債権譲渡を受けた会社をB社として説明します。
①債権譲渡時点で、引き直しても過払いにならない場合
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・20万円)
↓
A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
上記のケースを考えてみましょう。
ほとんどの貸金業者は、わざわざ自分で引き直し計算をすることはありません(過払いを知らない人、取れる人からは取っておけ、という考えでしょうか)。そのため、引き直せば20万円しか残っていないことを知っていながらも、約定残高50万円をB社に譲渡したので、これからは50万円(+利息)をB社に支払うように、という通知を送ってきます。
この場合、仮に債権譲渡が絡んでいたとしても、A社との取引を引き直し計算すれば、債権譲渡の時点での有効な借入残高は20万円ですから、B社が有効に取得できるのも20万円だけです。
よって、A社との取引部分も含めて、一連で引き直し計算することが可能です。
②債権譲渡時点で、引き直せば過払いだった場合
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・▲30万円)
↓
A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
その後、さらにB社に対して合計20万円を支払った。
それでは、上記のケースではどうでしょうか?
債権譲渡時点ですでに過払いだった分(▲30万円)について、B社が引き継ぐのかどうかが問題になります。
仮にB社が引き継ぐとすれば、B社に対して、譲渡時点での過払い分▲30万円と、譲渡後に支払った分20万円を併せて、50万円を請求できることになります。
B社が▲30万円を引き継がないとすれば、B社に請求できるのは譲渡後に支払った20万円のみであり、▲30万円はA社に対して請求するということになります。
結局どちらかに対して請求できるのであれば大差ないようにも思えますが、問題は、債権譲渡が絡む事案では、A社かB社のいずれかにはほとんど資力がないケースが多い、ということです。過去の事例の多くは、譲渡会社であるA社にはほとんどお金がなく、A社に対して返してくれと言っても返してくれない、裁判して判決とっても差し押さえる財産がない、というようなケースでした。
つまり、A社にお金がない、という事情を鑑みると、B社がまとめて返してほしい(B社が債権譲渡時点での過払いを承継してほしい)ということになります。
しかし、この点について、最高裁判所は、『B社が当然に過払いまでは承継しない』という判断を下しました。
【最高裁平成23年3月22日判決】
貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできない。
つまり、債権譲渡の場合に過払いまで承継するかどうかは、A社とB社の譲渡契約の内容次第であって、原則的には(当然には)B社は過払いを承継しない、とされたわけです。この判断の是非は置いておいたとして、現実的には、これにより、A社に対して発生していた過払い金を、B社に対して請求することは非常に難しくなってしまいました。上記の例でいうと、(お金のある)B社からはなんとか20万円回収できたけども、(お金のない)A社からは回収ができなかった、というケースが非常に増えてしまったわけです。
しかし、問題はこれだけでは終わりません。
長くなりましたので、続きは次回の記事とします。
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