時効期間経過後の裁判

一般的に、貸金業者からの借入金は、最終取引日から5年を経過すると消滅時効にかかります。

 

これは、借りている側からすると、借金を返さなくて済むわけですが、5年経過すればただちに支払い義務がなくなるわけではありません

 

時効というのは、援用(えんよう)しなければ効力が生じません。援用というのは、言ってみれば相手方に対して「もう時効なので払いません」とハッキリと伝えることです。これをしなければ、10年経とうが15年経とうが、法律上の支払い義務は残ったままですから、請求・督促が来る可能性はあります。このこと自体は違法ではありません。
また、何年も経過しているうちに、合併や商号変更で会社の名前が変わったり、債権回収業者に債権が売却されたりして、当初お金を借りた業者とは全く違う名前の業者から督促の手紙が届くことも多々あります。
さらに気を付けなければならないことは、5年以上経過した後でも、貸金業者や債権回収業者から、支払いを求める裁判を起こされる可能性があるということです。繰り返しますが、時効の援用をしない間は、何年経っていても、督促が来たり裁判を起こされたりする可能性はあります。
裁判を起こされた場合、時効期間が経過していたとしても、きちんと裁判所で「時効なので払いません」ということを主張しないと、自動的に裁判に負けてしまう可能性があります。いったん裁判に負けてしまうと、その後で時効を主張するのは極めて難しく、最悪、裁判に負けてから10年経たないと、時効の主張ができなくなってしまいます。
聞き覚えのない業者名だからと言って、架空請求か何かと思って放っておくと、取り返しのつかないことにもなりかねません。参考までに、下記にいくつかの債権回収業者名を挙げておきます。これらの業者は、正式に国の許可を受けて債権回収業をおこなっておりますので、架空請求ではありません。督促が来た、裁判を起こされたという場合には、早急に専門家にご相談されてみることをお勧めします。
・アビリオ債権回収株式会社
・ニッテレ債権回収株式会社
・エー・シー・エス債権管理回収株式会社
・ジェーピーエヌ債権回収株式会社
・オリンポス債権回収株式会社
・エム・テー・ケー債権管理回収株式会社
・ティーアンドエス株式会社(いわゆるサービサーではありませんが、他社から債権譲渡を受けて回収業務をおこなっていることが多い会社です。)
※許可を受けたサービサーは他にも多数存在します。
参考URL 法務省:債権管理回収業者一覧
http://www.moj.go.jp/housei/servicer/kanbou_housei_chousa15.html

 

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時効期間経過後の裁判

以前債務整理の手続きをした依頼者から、「債権回収業者から訴訟を起こされたので相談したい」と連絡がありました。

話を聞くと、もともとの債権者は、ポケットバンクの名称で知られていた三洋信販株式会社で、提訴してきたのはアビリオ債権回収株式会社という会社でした。

これらの会社は、過去数回にわたって合併や社名変更を行っており、依頼者も、アビリオなどという名前には聞き覚えがなく、当初は何の件だかわかっていなかったようです。

<旧三洋信販系の経緯>
※三洋信販株式会社
↓吸収合併
プロミス株式会社
↓商号変更
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 ←今ココ

※三洋信販株式会社
↓債権譲渡
パル債権回収株式会社
↓吸収合併
三洋信販債権回収株式会社
↓商号変更
アビリオ債権回収株式会社 ← 今ココ
訴状を確認したところ、

・契約日:平成12年●月●日
最終入金日:平成15年●月●日
・パル債権回収株式会社への債権譲渡日:平成22年●月●日
・上記債権譲渡通知日:平成22年●月●日

とありました。

 

<ポイント①>消滅時効の起算点はいつか?
貸金業者からの借入金についての消滅時効は、商法第522条の規定により5年です。
上記のように、途中で債権譲渡がなされた場合であっても、原則的に、消滅時効の起算日はあくまで最終入金日となります。そのため、本件については、最終入金日から約12年が経過していることになります。

 

<ポイント②>時効中断事由がないか?
最終入金日から5年以内もしくは5年経過後であって、消滅時効を援用する前に、少しでもお金を支払うとか(債務の弁済)、電話などで借り入れの事実を認めるとか(債務の承認)、あるいは、裁判を起こされて判決を取られるとか(債務名義の取得)している場合は、時効期間はその時点から再度カウントされることになります。
今回のケースでは、最終入金日が平成15年であることは明らかですから、それ以後の弁済はありません。その他の時効中断事由も見受けられませんでした。

 

<ポイント③>債権譲渡は時効を中断させるか?
貸付債権が譲渡された場合でも、その旨の通知がされただけの場合は、それ以前に完成していた消滅時効を援用することが可能です。
※今回のケースでは、平成22年の債権譲渡の時点で、すでに最終入金日から5年以上経過しているため、消滅時効は完成していたといえます。
ただし、債権譲渡の際に、単なる通知のみではなく、「異議をとどめない承諾」をしている場合、その時点で仮に消滅時効が完成していたとしても、その主張(抗弁といいます)を放棄してしまうことになりかねません。
異議をとどめない承諾とは、その名の通り、「あなたに債権が移転することについて、私は何の文句もありませんよ。」という積極的な意思表示です。この承諾は、債権譲渡の時点で生じていた抗弁(すでに弁済しているだとか、時効にかかっているはずだとか、相殺だとかという、言ってみれば、借主側からの主張。)を放棄してしまうことになるため、注意が必要です。
今回のケースでは、業者からの債権譲渡の一方的な通知のみで、依頼者がそれに異議をとどめない承諾をしたという事情はなかったため、問題なく時効を援用することができました。
結果的に、裁判は、業者側の請求を棄却するという判決で終了したため、依頼者の支払い義務はないことがはっきりしました。一切支払う必要がないということになり、依頼者の方も一安心されていました。

 

現在、様々な業者による、「消滅時効にかかっている債権」についての請求、督促、裁判が増えてきています。
消滅時効は、5年の経過によって自動的に効力が生じるものではなく、「5年経過+時効の援用(相手方への通知)」をもって初めて効力をもちます。そのため、時効の援用がなされない限り、5年経っていようが10年経っていようが、業者側からの請求、督促などは、違法とまでは言えません。

 

また、今回のように、時効にかかっている債権について訴訟を起こされた場合、こちらからきちんと「時効なので支払い義務はない」という旨を伝えなければ、裁判には負けてしまいます。裁判所は、時効にかかっていることが明らかであっても、それをきちんと主張しなければ、認めてはくれないので注意が必要です。

 

中には、裁判を起こす前に、脅しのような督促によって1000円だけでも支払いをさせたり(債務の弁済)、借り入れの事実を認めさせるような電話内容を録音していたりして(債務の承認)、時効援用をできなくさせてから裁判をしてくるような業者もあります。
対応次第では、支払いをしていなかった期間の利息も含めて全額の支払い義務が生じる危険性もありますので、聞いたこともない業者からの督促や、相当昔の借金についての裁判などを起こされた場合は、うかつに返答などはせずに、すぐに専門家に相談されることをお勧めします。

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