元気なうちの「終活」

今日は、以前から遺言書作成のご相談をいただいている依頼者の方と一緒に、葬儀会社との打ち合わせに行ってきました。

この方は、不幸にも3年ほど前にご子息を亡くしてしまい、以後おひとりで暮らしています。ごきょうだいはいらっしゃいますが、すでに亡くなっている方や、もう何十年も会っていない方たちで、決して近い関係ではありません。

 
幸いにもお身体はお元気で、毎日のように近所の気の合うご友人たちと食事に行ったり出かけられたりされていますが、いかんせんご年齢のこともあり、自分の今後について、周りに迷惑をかけたくない、とのことでご相談に来られました。

 

ご本人としては、わずかばかりの財産しかないが、もし自分に何かあったら、その時に残っているお金や預貯金は、身の回りで本当に良くしてくれている友人のうち数人で分けてほしい、とのことでした。また、ご自身のご葬儀についても希望があり、最終的には、ご子息と同じ方法で供養してほしいとのことでした。

 

この方の場合、このまま万が一のことがあれば、相続人はごきょうだいの方たちになります。もし、ごきょうだいが先に亡くなられている場合にはその子どもたち、つまりご本人からみると甥、姪になります。そのため、ご本人の希望を叶えるためには、遺言を作成していただくしかありません。きちんとした遺言書があれば、ごきょうだいや甥、姪には遺留分はありませんから、相続財産は希望通りにご友人たちに引き継ぐことができます。

 

このようなご希望はあらかじめ常日頃からご友人には伝えていらっしゃったので、再度ご友人の方々にその旨(受遺の意思があるかどうか)の確認をした上で、相続財産をご友人に遺贈するという内容の公正証書遺言を作成することとなりました。

 
また、葬儀については、あらかじめ葬儀社と綿密に打ち合わせをした上で、喪主となってくれるご友人の方と、死後の事務委任契約を締結する方向で話がまとまりそうです。

 

死後の事務委任契約とは・・・
通常の委任契約の場合、委任者(ここでいう依頼者ご本人)が亡くなると、委任契約は効力を失ってしまうため、ご自身の死後のこと(葬儀、法要など)をお願いしていても、法律的には協力を持ちません。その点、死後の事務委任契約は、あらかじめ委任者の死亡によって効力を失わない旨を定めておくことで、ご自身の亡くなられた後のことについても、契約としての法的効力を持たせることが可能です。

 
葬儀社と葬儀の規模や段取り、費用の打ち合わせが終わり、おおよその目途がついたとのことで、依頼者の方が「これで安心した。いつでも思い残すことなく逝けますわ。」と言って晴れやかに笑っていらっしゃったのが印象的でした。

 

 

遺言や相続といった、「死」にまつわる話題は、とかくタブー視されがちです。ご本人ではなく、ご家族の方から「本当はきちんと遺言書を書いておいてほしいんだけど…」といった相談も数多くあります。しかし、その多くは、「こちら(家族)の方からは言い出しにくいので…」という結論に至ってしまいます。たしかに、僕も自分の親に向かって、「そろそろ遺言でも書いといてくれ」とはなかなか言いにくいので、難しいところではありますが・・・

 
遺言や死後の事務委任は、言ってしまえばご本人様の人生最後の希望、お願いです。元気なうちにそれを形にしておけば、もし万が一のことがあっても、ご本人様はもとより、残されたご家族の方も本当に助かるケースがほとんどなのです。そして、万が一のことがなく、その後も健康で長生きされるのであれば、それに越したことはありません。言ってしまえば、これらのいわゆる「終活」は、人生の保険のようなものです。元気なうちに準備しておくことが大切で、「いつでもできる」と思っているうちに、いざ病気になった後に「保険に入ろう」「入っておけばよかった」と思ってももう手遅れ、ということも十分に考えられるのです。

 
そして、単純なようで意外に複雑な相続。きちんとした準備をしておかなければ、なかなかご本人様の思うようにはいかないケースは本当に多いのです。

 

「うちは親族仲がいいから大丈夫」
「身内で文句を言う奴なんかいないから」

 

と思っていても、実際にお金や生活が絡んでくると、なかなかそれまでの関係通りにはいかないものです。

 

使い古された言い方ですが、「相続」が「争続」にならないために、事前の備えをきちんと行い、安心して余生を過ごされてほしいと思います。

 

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