遺産分割協議と遺言

今日は遺言についてのお話です。

 

故人がお亡くなりになって、相続人の方々で遺産をどう分けるかの話し合い(=遺産分割協議)をおこない、まとまりかけたところで、故人の自筆の遺言が発見された・・・

 
さて、このようなケース、実際になくはなさそうですよね?
このような場合、優先するのは遺産分割協議?それとも遺言??どちらになるのでしょう?

 
原則的に、きちんと様式を満たしている自筆証書遺言であれば、そちらが優先します。したがって、遺言書に記載された遺産を受け取ることのできる相続人・受贈者は、その遺言書に従って財産の名義変更や払い戻しをすることが出来ます。

 

ただし、遺言書と異なる内容での遺産分割協議は、それはそれで有効ですから、遺言書の存在を認めた上で、それとは異なる内容で相続人全員が同意すれば、そちらが優先します。

 

しかし、話し合いで決めたよりも、後で発見された遺言書には多くの財産がもらえるように書かれていた・・・なんて場合、その人から遺産分割協議に待ったがかかる可能性はありますよね?

 

例えば、父親が亡くなって、相続人は長男A、次男Bの場合、2人とも遺言書などないと思って、財産は半分半分で合意したところ、後になって「財産は4分の3を長男A、4分の1を次男Bに相続させる」という内容の遺言書が発見された場合、Aさんから、「遺言書の内容を知っていれば、半分半分などという協議はしなかった」といって、争いになる可能性があります。

 

Bさんからしても、「すでに財産を分け終わった後にそんなことを言われても・・・」となるかもしれませんし、場合によってはすんなりと遺産の再分配に応じられない可能性もあります。

 

そもそも、最初からそういった遺言書の内容がわかっていれば、Bさんも渋々ながら従ったかもしれませんが、後になって発見されたことにより、無用の争いに発展してしまう可能性も大いにあるのです。後々家族がもめないようにと思って残した遺言書が、これではよけいな争いを生んでしまい、元も子もありません。

 
また、こちらにも書いてある通り、自筆証書遺言には厳格な様式が定められており、様式を満たしていないものは、存在していても無効です。さらに、形式的な様式は満たしていても、財産の特定が不十分であったり、書き方が曖昧だったりすると、事実上、法務局や金融機関が財産の名義変更に応じない可能性も十分にあり得ます。

 
このような危険性を避けるためにも、遺言書は極力自筆ではなく、公正証書で残すべきです。公正証書遺言の場合、本人様が亡くなった後であっても、遺言書があるかどうかを検索することも可能ですから、この手続きを踏めば、後になって遺言書が発見されるということもありません。

 

また、作成の段階で文案作成に専門家が関与したり、公証人がチェックすることになりますので、内容が不明確であったり曖昧であるという可能性は限りなく低くできます。

 
遺言書は、手軽に作れても落とし穴がたくさんある自筆証書よりも、公正証書での作成を強くお勧めします。

 

 

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業務終了後のお付き合い。

昨日は公正証書の作成のご依頼を頂いていた方から、食事のお誘いを頂いたので、新長田のあたりまで行ってきました。名物(?)の鉄人28号像の近くには屋台用のテントがたくさん並んでおり、夏祭りか何かかと聞くと、ここ1週間ぐらいずっとやっているとのこと(結局何のイベントかは不明でした)。

 

屋台らしく、焼き物系のお店が多かったようですが、炎天下の作業は本当に大変そうでした。夕方でもなかなか気温は下がらないので、熱中症には気を付けて作業してもらいたいものです。

 
この依頼者の方は、見守り契約等の正式な契約こそ結んではいませんが、身寄りがおらずお一人暮らしのため、今後も定期的にお顔を拝見しに行きたいと思います。ご本人様も、家にいてもずっとテレビを見るぐらいしかすることがないので、外の出て誰かと話をするのが良い気分転換になる、とのこと。

 

ご依頼が終了した後も、こうして声をかけてもらえるのは本当にありがたいことだと思います。幸い長田区はすぐ近くなので、今後も専門家ではないく友人の1人として(というと偉そうですが)お付き合いを継続していきたいものです。

 

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2日連続で公証役場へ

昨日は地元倉敷の公証役場へ、今日は神戸の公証役場へ行ってきました。

 

内容はそれぞれ、公正証書遺言と死後事務委任契約書の作成でした。遺言の方は、財産の内容の聞き取りから、具体的な分配方法、そのための手段などを何度も打ち合わせさせて頂いた上で、ようやく昨日公正証書の作成に至りました。

 

死後事務委任契約の方も、実際の葬儀法要の内容に至るまで、できる限りご本人様の希望通りになるように調整をさせて頂きました。

 

いずれも、遺言執行者及び死後事務の受任者としてご指定頂きましたので、本当の意味での私の業務はご本人様亡き後、まだ何年も先のことになると思いますが、ひとまずはきちんとした書面が完成し、ご本人様も一安心されていました。

 

また、別件で、任意後見契約もしくは公正証書遺言の作成のご相談も頂きました。こちらは果たしてどのような方法によるのがベストなのか、もう少し考える必要がありそうです。

 

このあたりのいわゆる『終活』に絡む契約や書面作成などは、万人に対してベストな方法というのは存在しません。その人の置かれている状況や財産の多寡、家族関係や身近で頼れる人がいるかどうかなど、様々な事情を勘案した上で、ご本人様の希望を叶えるためにはどのような方法がベストなのかを、その都度検討していく必要があります。一概に、

 

「遺言さえ残せば大丈夫」
「後見契約さえ結べば大丈夫」

 

とは言うことはできません。

ご本人様の納得できる書類を残すために、何度でもご相談に応じさせて頂き、必要に応じて他の専門家や専門機関とも連携してお手伝いをさせて頂きます。

 
ご自身の将来こと、ご高齢のご家族のこと、ご心配事がありましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

 

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死後事務委任契約のために公証役場へ

先日、死後事務委任契約書を公正証書で作成するための打ち合わせで、神戸公証センターに行ってきました。

 

死後事務委任契約とは、主にお1人暮らしの高齢者などが、元気なうちに、ご自身が亡くなられた後の身の回りの事務処理を依頼しておく契約です。

 

遺言と似ていますが、遺言は単独行為(遺言を残す人が1人でできる行為)であるのに対し、死後事務委任契約はその名の通り「契約」ですので、相手方が合意していることが必要です。その分、相手方には契約を履行する義務が生じます。

 

例えば、遺言で「私の葬儀はこのようにしてほしい」と記載しても、これはあくまで希望・お願いのレベルであって、法的な拘束力はありません。これに対し、死後事務委任契約で契約した内容については、契約の相手方はそれを履行する義務を負うことになります。

 

また、遺言が主に遺産の分配方法などについて用いられるのに対し、死後事務委任契約は、その名の通り事務処理についての契約であることがほとんどです。例えば、現在の借家の解約手続き家財道具の処分病院代の支払い葬儀、納骨等の手配役所への届け出などがこれに当たります。その他、飼っているペットをこうしてほしい、これこれの友人たちには自分が亡くなったことを知らせてほしい、など、契約ですのでその内容は自由に決めることができます。

 

もちろん、身近な親族の方や、ご同居されている方がいて、わざわざ契約などという堅苦しいことをしなくても、ある程度自分の望み通りにしてくれる、という場合はあまり必要ではありません。それに対し、完全なお1人暮らしで、親族も、疎遠であったり遠方に住んでいたりして、あまり煩わしいことを頼めない、という場合は、信頼できる方とこういった契約を結んでおくと安心です。

 

今回お手伝いさせていただく方も、お歳は80代ですがまだまだお元気、毎日のように外出もされている方ですので、この契約が発効するのは当分先のことになると思います。ただ、ご家族に先立たれているために、万が一の際にあれこれとお願いできる人が身近にいません。周りのご友人たちも高齢ですので、自分に何かあった際に迷惑をかけるようなことにはしたくないとのことで、今回の契約をご希望されました。

 

ご自身の葬儀についても、ある程度こうしたいというイメージをお持ちであったため、あらかじめ近くの葬儀社と打ち合わせた上でプランを作成し、それに足りるだけの費用をあらかじめ預託しておくということになりました(ご本人曰く、自分が持ってたら全部使ってしまうので、とのこと)。

 

公証人の先生には、あらかじめ作成しておいた契約書案を確認していただき、問題ないとのことでしたので、早ければ来週にでも、ご本人様と一緒に公証役場に出向き、正式な公正証書にすることができそうです。ひとまずご本人様はこれで一安心されると思うので、余計な心配事はなくして、これからまだまだお元気で長生きしていただきたいと思います。

 

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公正証書遺言と証人

先週は公正証書遺言の作成相談のために、地元岡山県に行ってきました。

 

相談者は私の遠縁にあたる方なのですが、お子さんがおらず、奥様に先立たれてしまったため、今後ご自身に万が一のことがあった場合に、きょうだい、甥、姪が相続人になります。しかし、法定相続人の数も多く、中には財産を譲りたくない人物もいるということで、遺言の作成を勧めていました。

 

きょうだいや甥、姪については、法律上遺留分が認められていませんので、きちんとした遺言さえ残しておけば、本人の遺志通りに財産を承継させることが可能です。
相続財産は主に預貯金と不動産ですが、不動産は合計で9筆ほどあり、農地も含まれています。また、建物は数筆未登記であったりと、今後の処理についあれこれと検討しなければならないことが多くありました。
ずっと田舎暮らしで、法律などの難しい話は苦手という方だったので、途中で打ち合わせが難航することもありましたが、今回の相談でおおむね道筋は立ったため、あとは必要書類をそろえて、地元の公証役場で公証人と細部のすり合わせに入ることになると思います。

 

しかし、今回は親戚としての身分関係上、私が公証役場で証人(立会人)になることができません

 

※公正証書遺言を作成するには、証人2人が公正証書遺言の作成当日に立会うことが必要となります(民法969条第1号)。 ここでいう証人とは、遺言の内容について何らかの責任を負うものではなく、作成時点での立会いをするだけです。ただし、以下の者は証人になることができないとされています(民法第974条)。

①未成年者
推定相続人・受遺者及びその配偶者並びに直系血族
③公証人の配偶者、四親等以内の親族、書記及び雇人
今回、私の身分上の立場は②に当たってしまうのですが、同様に、近しい身内の場合は②に該当するため、証人になることができません。かといって、全くの無関係の友人、知人に遺言の立会いを頼むのも抵抗があるとのことで、今回は公証役場に依頼して、証人を手配してもらうことになりそうです(費用は8,000円~10,000円程度)。

 

この場合、公証役場で紹介してもらえる証人の方は、身元のしっかりしている人ですので、仮に遺言の内容が知られてしまっても、それが外部に漏れるというような心配はまずありません。

 

相談者自身はまだまだ元気なのですが、いつ何が起こるかわからないのが人生です。また、早くきっちりした書面を作って、気持ちの上でも安心していただきたいと思います。

 

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遺言検認期日に同行して

先日、以前からご依頼頂いていた方の自筆証書遺言の検認申立期日に同行してきました。

 

依頼者の方は、故人とは血縁関係はなく、故人の生前に、約20年間にわたって身の周りのお世話をされてきた方でした。故人の遺品を整理していたところ、自筆での遺言書を発見し、封筒の封印がされていなかったため、内容を確認すると、依頼者の方への感謝の気持ちと、財産全てを任せる、という内容でした。

 

 

故人からは、生前、自分には身寄りはいないと聞いていたそうですが、検認申立に際して相続人を調査したところ、90代の妹さんがお1人と、50代の甥にあたる方がお2人いらっしゃいました。幸いなことに、甥の方とは事前に連絡が取れ、状況を説明することができ、遺言の内容については口出しする気はないとのご返事を頂いていました。もう1人の妹さんについては、かなりのご高齢ということもあって、事前の連絡は取れなかったのですが、検認期日には、この方の後見人である社会福祉士さんが来られていました。ご本人は施設に入居されており、後見人の方も、お兄さん(故人)の存在については聞いていたものの、探すことは諦めていた、とのことでした。

 

 

甥のお2人は検認期日は欠席されていたため、依頼者の方と、後見人の方の立会いのもと、検認自体は滞りなく行われ、無事遺言書に検認調書を合綴して頂きました。

 

 

その後、後見人の方から、故人の妹さんは、調子が良ければ多少の会話はできる状態とのことで、できたら故人の生前の様子を聞かせて頂きたいとのことで、依頼者の方とあれこれといろんなお話をされていました。   依頼者の方も、「故人からは家族はいないと聞いていた。それでも実際にはこうやって、間接的ではあるものの、故人と血のつながりのある方に、故人についてのお話をすることができて本当に良かった。他人である自分だけが知っているよりも、やはりご家族の方に知って頂きたいという気持ちはずっとあった。」とおっしゃっていましたし、後見人の方からも、「妹さんに良い報告ができそうです。今日は来て良かったです。」とおっしゃって頂きました。

 

 

自筆証書遺言は、手軽に作成できる反面、今回のように、検認手続きやそれに先立っての相続人調査(今回取得した戸籍謄本は、計40通ほどにもなりました)など、残されたご家族の方への負担が大きく、できることなら遺言書は公正証書での作成をお勧めしています。しかし、今回に限って言えば、公正証書遺言であれば、他の相続人の方に連絡をとることはなかったかもしれません。そうなると、受遺者である相談者の方にも、どこか少しばかりの心のしこりが残っていたかもしれません。故人の望むところであったかどうかは知る由もありませんが、結果的には、ご家族との多少の接点のきっかけとなり、良かったのではないかと思います。

 

 

なお、今回作成されていた自筆証書遺言は、法律上の要件をすべて充たしていたため問題ありませんでしたが、記載内容や様式によっては、遺言自体が無効とされるケースもあります。たとえ自筆といえども、遺言書を作成される際には、内容、様式について問題がないかどうか、専門家にご相談されることをお勧めします。   メールボタン2

元気なうちの「終活」

今日は、以前から遺言書作成のご相談をいただいている依頼者の方と一緒に、葬儀会社との打ち合わせに行ってきました。

この方は、不幸にも3年ほど前にご子息を亡くしてしまい、以後おひとりで暮らしています。ごきょうだいはいらっしゃいますが、すでに亡くなっている方や、もう何十年も会っていない方たちで、決して近い関係ではありません。

 
幸いにもお身体はお元気で、毎日のように近所の気の合うご友人たちと食事に行ったり出かけられたりされていますが、いかんせんご年齢のこともあり、自分の今後について、周りに迷惑をかけたくない、とのことでご相談に来られました。

 

ご本人としては、わずかばかりの財産しかないが、もし自分に何かあったら、その時に残っているお金や預貯金は、身の回りで本当に良くしてくれている友人のうち数人で分けてほしい、とのことでした。また、ご自身のご葬儀についても希望があり、最終的には、ご子息と同じ方法で供養してほしいとのことでした。

 

この方の場合、このまま万が一のことがあれば、相続人はごきょうだいの方たちになります。もし、ごきょうだいが先に亡くなられている場合にはその子どもたち、つまりご本人からみると甥、姪になります。そのため、ご本人の希望を叶えるためには、遺言を作成していただくしかありません。きちんとした遺言書があれば、ごきょうだいや甥、姪には遺留分はありませんから、相続財産は希望通りにご友人たちに引き継ぐことができます。

 

このようなご希望はあらかじめ常日頃からご友人には伝えていらっしゃったので、再度ご友人の方々にその旨(受遺の意思があるかどうか)の確認をした上で、相続財産をご友人に遺贈するという内容の公正証書遺言を作成することとなりました。

 
また、葬儀については、あらかじめ葬儀社と綿密に打ち合わせをした上で、喪主となってくれるご友人の方と、死後の事務委任契約を締結する方向で話がまとまりそうです。

 

死後の事務委任契約とは・・・
通常の委任契約の場合、委任者(ここでいう依頼者ご本人)が亡くなると、委任契約は効力を失ってしまうため、ご自身の死後のこと(葬儀、法要など)をお願いしていても、法律的には協力を持ちません。その点、死後の事務委任契約は、あらかじめ委任者の死亡によって効力を失わない旨を定めておくことで、ご自身の亡くなられた後のことについても、契約としての法的効力を持たせることが可能です。

 
葬儀社と葬儀の規模や段取り、費用の打ち合わせが終わり、おおよその目途がついたとのことで、依頼者の方が「これで安心した。いつでも思い残すことなく逝けますわ。」と言って晴れやかに笑っていらっしゃったのが印象的でした。

 

 

遺言や相続といった、「死」にまつわる話題は、とかくタブー視されがちです。ご本人ではなく、ご家族の方から「本当はきちんと遺言書を書いておいてほしいんだけど…」といった相談も数多くあります。しかし、その多くは、「こちら(家族)の方からは言い出しにくいので…」という結論に至ってしまいます。たしかに、僕も自分の親に向かって、「そろそろ遺言でも書いといてくれ」とはなかなか言いにくいので、難しいところではありますが・・・

 
遺言や死後の事務委任は、言ってしまえばご本人様の人生最後の希望、お願いです。元気なうちにそれを形にしておけば、もし万が一のことがあっても、ご本人様はもとより、残されたご家族の方も本当に助かるケースがほとんどなのです。そして、万が一のことがなく、その後も健康で長生きされるのであれば、それに越したことはありません。言ってしまえば、これらのいわゆる「終活」は、人生の保険のようなものです。元気なうちに準備しておくことが大切で、「いつでもできる」と思っているうちに、いざ病気になった後に「保険に入ろう」「入っておけばよかった」と思ってももう手遅れ、ということも十分に考えられるのです。

 
そして、単純なようで意外に複雑な相続。きちんとした準備をしておかなければ、なかなかご本人様の思うようにはいかないケースは本当に多いのです。

 

「うちは親族仲がいいから大丈夫」
「身内で文句を言う奴なんかいないから」

 

と思っていても、実際にお金や生活が絡んでくると、なかなかそれまでの関係通りにはいかないものです。

 

使い古された言い方ですが、「相続」が「争続」にならないために、事前の備えをきちんと行い、安心して余生を過ごされてほしいと思います。

 

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