クレジットカードの現金化の罠①

先日債務整理のご相談を頂いた方ですが、立替金(ショッピング)のご利用がかなりの額に上っていました。

 

理由を聞くと、他社への返済に充てるために、チケットなどをクレジットカードの分割払いで購入し、チケットセンターに売って現金にしたり、同様に家電製品を購入して、それを売却して現金にしたりでしのいできたとのこと。

 

最近では、総量規制が進み、貸金業者からの借入額が一定限度を超えた方は現金の借入れ(キャッシング)ができなかったり、収入によってはキャッシングの限度額が低く抑えられたりしています。

 

しかし、一方で、クレジットカードのショッピング枠は、キャッシングの限度額に比べて多額の設定になっていることが多く、これに目をつけた業者の、いわゆる「クレジットカードのショッピング枠を現金化」という手法も広まってきています。

 

この方法は、何も最近になって始まったわけではなく、実はかなり前から行われていたのですが、総量規制の広がりとともに、利用者が増えてきたという面もあると思います。

 

この方法は、実は非常に危険な方法で、債務整理にも影響が出るケースがあります(これらの行為を頻繁に行っている場合は、債務整理手続きができなくなる可能性があります)。

 

にもかかわらず、クレジットカード保有者の中には、今回の相談者の方のように、先々のことよりも目先の返済に追われ、ついこういった行為に手を出してしまう方が大勢います。

 

そのため、今後数回にわたって、改めてクレジットカードのショッピング枠の現金化の罠について解説させて頂きます。

メールボタン2

SFコーポレーションからの封書

SFコーポレーションという会社から、破産債権届出書と書かれた封書が届いているようです。

 

この会社、年配の方などで、何年も前に取引が終わっている方には聞き覚えがないかもしれませんが、旧社名を三和ファイナンスという貸金業者です。この会社は、平成23年8月26日付で破産開始決定を受けており、いわゆる倒産している会社です。

 

その後、会社財産の中から、いくらかでも各債権者(過払いとなっている元顧客がほとんどです)に対して配当をするために破産手続きを進めていたようですが、今般、一応の配当見込みがついたとのことで、先月ぐらいから順次上記書類が届いているようです。

 

とはいえ、その配当率は約1%程度で、仮に数字上100万円の過払いになっていたとしても、1万円ほどしか返ってこない計算になります。到底納得されない方も多いかとは思いますが、この会社に関しては、裁判所での破産手続の中で認められた配当率であるため、司法書士や弁護士に依頼をしても、回収額が増えるということはありません。

 

上記封書の中には、返金先の口座を記入して返送するための書類と封筒が入っていますので、そちらに返金希望口座を記入して送付することになります。納得できないと思いの方も、この書類を送っておかなければ、返ってくるものも返ってこないので、ひとまず送付されておいた方がよろしいかと思います。

 

聞き覚えのない会社から、弁護士の名前で破産がどうとかいう書類がいきなり送られてきた、といって驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、詐欺や架空請求の類ではないのでご安心(?)ください。

メールボタン2

被告代理人として出廷

先日、数年間の延滞の末、債権者から支払督促を申し立てられた事件の代理人として出廷してきました。

 

原告側は社内担当者の方が出廷してきていましたので、別室で司法委員を交えての話し合いとなりました。こちらとしては、請求自体には争う余地がないため、あとは被告の現状を説明した腕、なんとか分割払いに応じてもらうしかありません。

 

当初は、延滞が長期に及んでいること、その間債権者からの連絡にも一切応じず、借り手としての誠意が感じられなかったことなどを理由に、なかなかこちらの希望する案に応じてもらえませんでした。今回は本人の勤務先も知られているため、いざとなれば給与差押えが可能という点においても、こちらには不利な状況でした。
月々の返済額を上げることや、初回に頭金としてある程度まとまった金額を支払うことなどを主張されましたが、被告の現状を考えるといずれも現実的ではありません。こちらとしても、どう頑張っても無理な内容で和解するわけにもいきません。

 

本人の生活状況や家計の状況、勤務先での立場なども説明し(もちろん、本人からは、あらかじめ債権者に伝えても構わないという了承を得ています)、最終的にはこちらの希望通りに近い内容で合意してもらいました。さすがに遅延損害金まで全額カットというわけにはいきませんでしたが、この部分についても温情は見せてもらうことができました。
今回合意した内容は、裁判所での和解になりますので、今後万が一延滞等があれば、即差押えをされる可能性があります。そのあたりのことをご本人様には重々説明し、納得して頂きました。あとは、ご本人様が今度こそ遅れることなく支払っていってくれることを祈るのみです。
貸金業者も、本人が憎くて裁判をやっているわけではなく、こちらがある程度誠意を見せれば応じてくれる可能性はあると思います。ただ、その際にも、過去の事情次第(返済できないからと、一切の連絡を無視して放置するなど)では、交渉が難航するケースも少なくありません。

 

返済が苦しいと感じ始めたら、現実から目を背けるのではなく、早めに専門家にご相談されることをお勧めします。

 

メールボタン2

債務整理と自動車

自己破産、個人再生などの裁判所を通じて行う債務整理の場合、自動車は必ず処分しなければならないと思われている方が多いようです。

 

これは、半分は本当ですが、必ずしも処分しなくてもいいケースがあります。自動車に関しては、生活、通勤などで利用されている方も多く、できれば手放したくないというのが誰しもの本音でしょう。では、どのようなケースで処分しなければならず、また、処分しなくていいのか、順序立てて説明します。

 

ローンが残っているかどうか?
まず第一には、そもそも自動車ローンが残っているかどうかです。ローンを組まずに現金で購入している、あるいはローンをすでに完済されている場合、自動車は完全に本人名義の財産になります。
この場合、個人再生手続きにおいては、そもそも処分の対象になりません(清算価値として計上するケースはありますが、処分する必要はありません)。
また、自己破産の場合でも、初年度登録(新車時点)から7年(軽自動車は5年)以上経過しているものについては、便宜上財産価値なしとして、処分する必要はありません。
したがって、長年乗り続けているような場合は、ほとんど処分の対象にはならず、そのまま乗り続けることが可能です。

では、ローンがまだ残っているという場合はどうでしょうか?

 
車検証上の所有者は誰か?
自動車ローンを組んで購入している場合、ローン完済までは車検証上の所有者(使用者ではありません)がローン会社になっているケースがほとんどです。この場合、ローン完済までは、法律上の所有権はローン会社にあり、完済して初めて、晴れて本人名義になります(名義変更書類をローン会社が送ってきます)。
そのため、ローンの途中で債務整理をすると、ローン会社は、まずは自分のモノである自動車を引き揚げて換価します。この場合は、残念ながら自動車は失うことになります。
ただし、中古車などでローン金額が多額でない場合や、JAなどの一部の自動車ローンは、購入時にローン会社名義ではなく、本人名義にしている場合もあります。この場合は、ローンが残っていたとしても、所有権は本人にあるので、①と同様、処分しなくても良い可能性があります。

 

親族等の援助は可能か?
不幸にして、所有者はローン会社名義になっており、ローンもまだ残っているという場合でも、親族等でローンを肩代わりできる人がいる場合は、手放さなくても良い可能性はあります。すなわち、援助で自動車ローンを完済し、その方の名義に変更した上で、自動車自体は借りて使っているという状態にすることで、処分を免れることができるかもしれません。

ただしこれは、援助してくれる人間が周りにいることが条件になりますので、誰でも可能というわけではありませんが…
それ以外にも、場合によっては他の家族名義で安価な中古車を購入してそちらに乗り換えたりすることも可能かもしれません。

 
都市部に住んでいると、自動車はなくても十分に生活はできますが、いざ乗り出すとなかなか手放すことができなかったり、そもそも生活や仕事に欠かせないという場合もあります。そういった場合でも、状況次第では自動車を手放すことなく借金を整理できる可能性は十分にありますので、整理に踏み切りたいけど自動車がネックだという方は、1度専門家にご相談してみることをお勧めします。

 

メールボタン2

支払督促異議申立事件

先日受任した被告事件の件で、依頼者と打ち合わせを行いました。

 

この方は、3年半ほど前にとあるカード会社からの借入れを延滞してしまい、その後一切支払いができていませんでした。当時諸事情により収入が激減し、自己破産も検討したものの、結局専門家に支払うお金の余裕もないとのことで、破産もしないまま今日まできました。そのうちに、業者からの督促もほとんどなくなったため、半ば忘れかけていたところに、今回、債権回収業者から支払督促を申し立てられました。

 

支払督促を打たれた以上、無視を続けることはできません。今回は時効を主張することもできないため、なんとか支払っていく方向で話を進める必要があります。家計状況には余裕はありませんが、本人にも支払いの意思はあるとのこと。ただし、本人は仕事が忙しく、平日に裁判所に行けないことと、債権者と直接話をするのが怖いとのことで、被告代理人として対応することとなりました。

 

受任時点では、督促異議申立期間がぎりぎりであったため、ひとまず急ぎで受任し、裁判所に代理人就任の旨と督促異議申立を行いました。その後、通常訴訟に移行し、初回期日が指定されたため、改めて本人に来所して頂き、現在の家計状況等の詳細を伺いました。

 

債権者側との話し合いに臨むにあたって、本人の情報を何も持っていかないのでは話になりません。中には、現在の債権額と、ある程度妥当と思われる毎月の支払い原資のみで交渉するという方も聞いたことはありますが、お金を借りて支払っていないことは事実ですから、債権者にもきちんと誠意をもって話をすべきではないかと思います。

 

現在の家族構成も含めた生活の状況、家計収支、勤務先の状況(今回は債権者は現在の勤務先を知っているとのこと)、今後の見通し等もふまえた上で、可能な範囲での和解案を提示すべきだと思います。つまり、『毎月●万円以上は厳しい。ただし、●万円であればなんとか頑張って支払っていける』ということを、客観的にも納得してもらえるだけの材料をもっていくべきだと思います。

 

※中には、当初「毎月1万円しか払えないのでそれで交渉してほしい」と言ってきていた依頼者が、家計状況を詳しく伺うと、毎月10万円以上の余剰があることが判明したケースなどもあります。「どのみち今後の利息カットしてもらえるなら、毎月無理して払う必要もないと思った」とのことでしたが、それではあまり誠意ある対応とは言えない気がします。

 

ある程度詳細を伺った上で、返済交渉のベースも調ったため、初回期日ではその範囲で収まるよう交渉してみる予定です。なんとか上手くまとまってくれればいいのですが・・・

 

メールボタン2

代位弁済と債権譲渡の消滅時効起算点

先日個人再生のご依頼を受けた方について、銀行からの債権調査票が届き始めました。この方は以前に事業をされていた関係で、消費者金融よりも銀行などの金融機関からの借入れが多く、引き直し計算では借金を減らすことができず、個人再生を選択しました。

 

さて、銀行からの融資(カードローンも含む)には、ほぼ例外なく保証会社がついています。このため、支払いが滞ったり、今回のように何らかの整理手続きに入った場合、銀行にその旨通知すると、保証会社が銀行に対して借金をいったん立て替えます。その後は、保証会社が銀行に代わって債権者となります。これを、「代位弁済による求償権の取得」と言います。

 

さて、この代位弁済が絡んだ場合、時効の起算点はいつになるのでしょうか?銀行に最後に支払った日?それとも、代位弁済が行われた日でしょうか?

 

答えは後者、「保証会社が代位弁済を行った日」から消滅時効は起算されます。銀行に最後に支払った日からではありません。もっとも、銀行は支払いが滞った場合には、比較的早期に保証会社に代位弁済を求めます。延滞を2年も3年も放置してから保証会社が代位弁済、というケースはまずあり得ません。そのため、銀行に最後に支払った日と、保証会社が代位弁済をした日は、長くても数ヶ月程度の差しかないことになります。

 

とはいえ、もしも、「銀行への最終支払い日からは5年経過しているが、代位弁済からはぎりぎりまだ5年経過していない」といったケースの場合は注意が必要です(下手に時効援用したところ、実はまだ時効期間が経過しておらず、反対に裁判をされたといったことになりかねません)。

 

これとよく似たケースで、支払を放置していたら、「債権譲渡」がなされる場合があります。債権譲渡の場合は、債権譲渡から5年ではなく、もとの債権者へ最後に支払ってから5年で時効となります。消費者金融やクレジット会社の場合は、無担保無保証で保証会社がついていないことがほとんどですので、債権回収業者に譲渡され、聞いたこともない会社から督促が来るというケースもあります。

 

保証会社による代位弁済と大きく異なるのは、延滞から数ヶ月程度で債権譲渡されることはまずない、という点です。数ヶ月どころか、数年経って忘れた頃に譲渡されるケースも良くあります。この場合は、たとえ譲渡から数ヶ月しか経っていなくても、もとの債権者に最後に支払ってから5年経過していれば、時効を援用できる可能性があります。

 

債権譲渡なのか代位弁済なのか、一般の方は書面を見ても良く分からないケースもあるかと思います。司法書士や弁護士であれば、書面を一目見ればそこらへんの判断はできると思いますので、お気軽にご相談下さい。

 

メールボタン2

過払いと債権譲渡②

前回の記事で、債権譲渡時点で過払いが発生していても、譲受会社(B社)は当然にはその過払いを承継しない、という話をしました。

 
そこでよくある例として、譲渡会社であるA社にはほとんどお金がなく、B社にお金があったとしても、A社に対しての過払いを、B社に請求はできないケースが多いと説明しました。
では逆に、「A社にはお金があるが、B社にはお金がない場合」はどうでしょうか?

(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・▲30万円

A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
その後、さらにB社に対して合計10万円を支払った
前回の記事の理屈でいうと、A社に対しては譲渡時点での過払い分として30万円、B社に対しては譲渡以後に支払った分として10万円をそれぞれ請求できることになります。

 

しかし、A社B社との間の債権譲渡契約で、

本件の過払いについては全てB社が責任を負う

という定めがあるとしたらどうでしょうか?
前回の最高裁判所の判断は、

 

B社が過払いを引き継ぐかどうかは、A社B社の契約内容次第で、原則は引き継がない。」

 

といった趣旨のものでした。

 

これを逆手にとって、お金のないB社に債権譲渡して、「過払いも全部B社が責任持ちますよ」などという契約を結ばれてしまった場合、(お金のない)B社に対してしか請求ができず、(お金のある)A社には請求できなくなってしまいます。

 
実際に、一部の業者間では上記のような債権譲渡が行われています。表面上はつながりがないように見えても、実は裏でつながっているB社に対して、過払いとなっている取引を譲渡し、譲渡契約の内容を盾に、A社は責任を負わないと主張してきます。

 

B社はほとんどペーパーカンパニーのような会社で、そもそもB社名義での財産は存在しないか上手く隠しているため、B社に対して裁判しようが差し押さえしようが回収は困難、事実上、A社B社で結託して、過払い金を踏み倒しているようなものです。

 

しかしながら、こんなことが許されていいはずがありません。体のいいトカゲの尻尾切りのようなものです。こんなことが認められてしまうと、貸金業者は次から次へと実は過払いになっている取引を別会社に譲渡し、その会社に過払いの責任も負うという契約内容を作り上げて、責任逃れに走ってしまうことになります。

 
現在、まさに上記のようなご相談を頂いています。
当然許しがたい行為なので、なんとかして責任を負わせるべく訴訟の準備中です。結果は追ってご連絡させて頂きます。

 

メールボタン2

過払いと債権譲渡①

過払い訴訟の争点の1つに「債権譲渡」があります。

 

ある会社との取引が利息制限法超過利率での取引だった場合、取引途中でその債権が別の会社に譲渡されたというケースにおいて、譲受会社にいくら支払わなければならないか、途中で過払いになった場合に、どちらの会社に請求ができるか、といった問題です。

 

この問題は、債権譲渡時点において、取引がすでに過払いになっていたか否かで大きく変わってきます。以下、もともと取引のある会社をA社、A社から債権譲渡を受けた会社をB社として説明します。

 

①債権譲渡時点で、引き直しても過払いにならない場合
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・20万円

A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。

上記のケースを考えてみましょう。
ほとんどの貸金業者は、わざわざ自分で引き直し計算をすることはありません(過払いを知らない人、取れる人からは取っておけ、という考えでしょうか)。そのため、引き直せば20万円しか残っていないことを知っていながらも、約定残高50万円をB社に譲渡したので、これからは50万円(+利息)をB社に支払うように、という通知を送ってきます。

この場合、仮に債権譲渡が絡んでいたとしても、A社との取引を引き直し計算すれば、債権譲渡の時点での有効な借入残高は20万円ですから、B社が有効に取得できるのも20万円だけです。

よって、A社との取引部分も含めて、一連で引き直し計算することが可能です。

 

 

②債権譲渡時点で、引き直せば過払いだった場合
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・▲30万円

A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
その後、さらにB社に対して合計20万円を支払った

 

それでは、上記のケースではどうでしょうか?
債権譲渡時点ですでに過払いだった分▲30万円)について、B社が引き継ぐのかどうかが問題になります。

 

仮にB社が引き継ぐとすれば、B社に対して、譲渡時点での過払い分▲30万円と、譲渡後に支払った分20万円を併せて、50万円を請求できることになります。

 

B社が▲30万円を引き継がないとすれば、B社に請求できるのは譲渡後に支払った20万円のみであり、▲30万円はA社に対して請求するということになります。

 

結局どちらかに対して請求できるのであれば大差ないようにも思えますが、問題は、債権譲渡が絡む事案では、A社かB社のいずれかにはほとんど資力がないケースが多い、ということです。過去の事例の多くは、譲渡会社であるA社にはほとんどお金がなく、A社に対して返してくれと言っても返してくれない、裁判して判決とっても差し押さえる財産がない、というようなケースでした。

 

つまり、A社にお金がない、という事情を鑑みると、B社がまとめて返してほしい(B社が債権譲渡時点での過払いを承継してほしい)ということになります。

 

しかし、この点について、最高裁判所は、『B社が当然に過払いまでは承継しない』という判断を下しました。

 

【最高裁平成23年3月22日判決】
貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできない

 
つまり、債権譲渡の場合に過払いまで承継するかどうかは、A社B社の譲渡契約の内容次第であって、原則的には(当然には)B社は過払いを承継しない、とされたわけです。この判断の是非は置いておいたとして、現実的には、これにより、A社に対して発生していた過払い金を、B社に対して請求することは非常に難しくなってしまいました。上記の例でいうと、(お金のある)B社からはなんとか20万円回収できたけども、(お金のない)A社からは回収ができなかった、というケースが非常に増えてしまったわけです。

 
しかし、問題はこれだけでは終わりません。
長くなりましたので、続きは次回の記事とします。

 

メールボタン2

支払督促と過払い

2年ほど前に前事務所で手続きをされた依頼者が、債権回収業者からの支払督促を持ってこられました。

 

見ると、数年前まで利用していたクレジットカードについて、完済に至らずに放置していた様子。キャッシングとショッピング利用分で合計すると、元金が約60万円、支払っていなかった期間の利息・遅延損害金が約40万円で、合計100万円程度の請求になっています。しかも、最後に支払ってから5年は経過していないため、別件のように時効を援用して終わりというわけにもいきません。

 

以前に手続をされた時点では、すでに支払を辞めて2年ほど経過しており、督促も来ていないからということで、この件については申告していなかったというのです(それもそれで困ったものですが…)。

 

この方は、以前に債務整理手続きを経験済みのため、今回の件についても、

 

これ、キャッシングでも使っとったから、過払いでなんぼか減るんやろ?

 

とのこと。

 

たしかに、クレジットカード会社の多くは、キャッシング取引について、平成20年前後までは、20%以上の金利を設定していたため、それ以前にキャッシング取引がある方については、過払い金が発生する可能性はあります。そのため、利息制限法で引き直せば、本人が認識している借金額よりもかなり少なくなるケースはたくさんあります。

 

しかしながら、今回はすでに債権回収会社(サービサー)に譲渡されており、しかも支払督促(≒裁判)までされています

 

裁判所は、基本的には利息制限法の制限利率を上回る利息での貸付について、利息制限法に引き直し計算をした上での残金の請求しか認めていません。つまり、裁判を起こされたということは、すでに引き直し計算はされているということなのです。

 

また、債権回収会社は、(それらしい名前を騙るヤミ金まがいの詐欺会社を除き)法務省の許可がないと営業ができません。
※法務省が営業許可した債権回収会社の一覧はコチラ(法務省HP)。

 

そして、これらのサービサーは「債権管理回収業に関する特別措置法」という法律に従って業務を行わなければならず、その18条において、「利息制限法に定める制限額を超える利息・賠償額の支払いの約定がなされている債権について,利息制限法の制限額内に引き直さずに履行の要求を行うことの禁止」を定めています。

 

つまり、今回のケースに当てはめると、裁判を起こされている時点、もっと言えば、適法なサービサーに譲渡されている時点で、すでに引き直し計算をされた上での残額部分を請求されているということなのです。

 

したがって、今回の請求額が、引き直し計算によって減額されるということはありません。というよりも、すでに減額されて、それでもなお利息損害金込みで約100万円の支払義務があるということなのです。

 

この説明に、依頼者も落胆したようですが、少なくとも借りたことは事実なので、なんとか分割で払っていきたいとのこと。

 

それであれば、急いで支払督促異議申立をしなければなりません。2週間の期限が迫っておりましたので、早急に委任を頂き、ひとまず裁判所に支払督促異議申立書を提出しました。

 

これで通常裁判に移行することになりますが、訴訟代理も含めての依頼でしたので、当方が代わりにに裁判所に行って交渉可能です。通常訴訟期日までにはまだ時間がありますので、当日までに、依頼者の家計状況を精査して、現実的かつ誠意ある内容の和解案をもって債権者との交渉に臨みたいと思います。

 

※支払督促や裁判所からの訴状は、仮に大昔の借金であっても、放置すれば相手の言い分を全て認めたことになってしまい、後から争ったり交渉したりというのが難しくなる可能性があります。これらが届いた場合には、早急に専門家にご相談されることをお勧めします。

メールボタン2

印鑑の無断使用と免責の効力②

以前にこちらで紹介した、自己破産後の請求のケースですが、進展がありましたので報告します。

 

結論から言うと、訴訟になることなく、債権者側が請求を諦め、債権債務なしでの和解に応じるとのことでした。

 

まず、こちらが最初に代理人として話を持ちかけた際、債権者側の言い分は、

 

「自己破産していることは(本人から聞いて)知っている。しかし、その際に債権者一覧表に当方が記載されていなかったため、裁判所からの通知等は一切来ていない。よって免責の効力は及ばないので、請求は止めない。」

 

というものでした。

 

債権者一覧表に記載しなかった場合の免責の効力については前回の記事で書いた通りです。

 

今回は、自己破産当時、依頼者が債務として認識できなかったとしてもやむを得ない事情がある(本人が保証債務として認識していない)ため、免責の効力は及ぶはずです。その旨を主張しましたが、債権者側の態度は強硬でした。

 

債権者側の主張をまとめると、

 

・たしかに、契約時に連帯保証人本人と面談した記録はないが、署名と実印、印鑑証明書の提出があったため、十分な証拠となる。

・契約後、主債務者からの返済が始まった際に、連帯保証人に電話で確認しているはず。

・契約後、主債務者からの返済が遅延した際(依頼者が自己破産するより以前)に、連帯保証人に手紙を送っているので、その時点で保証債務の存在を認識できたはず。

・したがって、自己破産するよりも前に、連帯保証人も保証債務の存在を認識できたはずであって、その時点で何ら争う姿勢を見せなかったことは、保証契約を追認したことにほかならない。その上で債権者一覧表に敢えて記載しなかったのだから、免責の効力は及ばない。

 

といったようなものでした。

 

依頼者本人とも相談し、現時点で債務不存在訴訟を提起することは可能であることを説明しましたが、そうなるとやはり多少なりとも費用をいただくことになってしまうため、この点を躊躇されていました。

お金が返ってくるような裁判であれば、事後的に回収額の中から報酬を頂くことも可能ですが、今回のようなケースでは、仮に裁判に勝ったとしても、依頼者本人の手元には1円も入ってきません。そのため、極力コストをかけずになんとかしてほしいというのは自然な感情だと思います。

 

そこで、ひとまずは内容証明郵便でこちらの主張を明確に相手に伝え、並行して交渉を続けていくことにしました。少なくとも、専門家が間に入って話し合いを続けている限りは、依頼者本人に厳しい督促がいくことはありません。万が一相手方が痺れを切らして裁判を起こしてきたとしても、こちらとして争う要素は十分にあります。

 

そして、ご本人からはひとまず内容証明郵便代の実費を頂き、正式に書面で主張を伝えて交渉していたところ、つい先日、債権者側から、

 

「先日の書面(内容証明)の内容と、そちら側の主張をふまえて再度内部で検討した結果、今回のケースに限っては請求を放棄します。」

 

との回答を得ました。

 

こちらとしては、最悪裁判になったとしても、勝訴の見込みは十分にあると思っていたので、別段驚きもしませんでしたが、依頼者本人に余計な費用負担を強いることなく解決できたのは良かったのではないかと思います。その旨を報告したところ、依頼者の方も非常に喜んでいました。

 

身に覚えのない借金の請求や、遥か昔に借りて長期間払っていなかった借金の督促、毎月の返済にお困りの方は、ぜひ1度専門家にご相談されてみることをお勧めします。

 

メールボタン2