先日、数年間の延滞の末、債権者から支払督促を申し立てられた事件の代理人として出廷してきました。
原告側は社内担当者の方が出廷してきていましたので、別室で司法委員を交えての話し合いとなりました。こちらとしては、請求自体には争う余地がないため、あとは被告の現状を説明した腕、なんとか分割払いに応じてもらうしかありません。
当初は、延滞が長期に及んでいること、その間債権者からの連絡にも一切応じず、借り手としての誠意が感じられなかったことなどを理由に、なかなかこちらの希望する案に応じてもらえませんでした。今回は本人の勤務先も知られているため、いざとなれば給与差押えが可能という点においても、こちらには不利な状況でした。
月々の返済額を上げることや、初回に頭金としてある程度まとまった金額を支払うことなどを主張されましたが、被告の現状を考えるといずれも現実的ではありません。こちらとしても、どう頑張っても無理な内容で和解するわけにもいきません。
本人の生活状況や家計の状況、勤務先での立場なども説明し(もちろん、本人からは、あらかじめ債権者に伝えても構わないという了承を得ています)、最終的にはこちらの希望通りに近い内容で合意してもらいました。さすがに遅延損害金まで全額カットというわけにはいきませんでしたが、この部分についても温情は見せてもらうことができました。
今回合意した内容は、裁判所での和解になりますので、今後万が一延滞等があれば、即差押えをされる可能性があります。そのあたりのことをご本人様には重々説明し、納得して頂きました。あとは、ご本人様が今度こそ遅れることなく支払っていってくれることを祈るのみです。
貸金業者も、本人が憎くて裁判をやっているわけではなく、こちらがある程度誠意を見せれば応じてくれる可能性はあると思います。ただ、その際にも、過去の事情次第(返済できないからと、一切の連絡を無視して放置するなど)では、交渉が難航するケースも少なくありません。
返済が苦しいと感じ始めたら、現実から目を背けるのではなく、早めに専門家にご相談されることをお勧めします。
自己破産、個人再生などの裁判所を通じて行う債務整理の場合、自動車は必ず処分しなければならないと思われている方が多いようです。
これは、半分は本当ですが、必ずしも処分しなくてもいいケースがあります。自動車に関しては、生活、通勤などで利用されている方も多く、できれば手放したくないというのが誰しもの本音でしょう。では、どのようなケースで処分しなければならず、また、処分しなくていいのか、順序立てて説明します。
①ローンが残っているかどうか?
まず第一には、そもそも自動車ローンが残っているかどうかです。ローンを組まずに現金で購入している、あるいはローンをすでに完済されている場合、自動車は完全に本人名義の財産になります。
この場合、個人再生手続きにおいては、そもそも処分の対象になりません(清算価値として計上するケースはありますが、処分する必要はありません)。
また、自己破産の場合でも、初年度登録(新車時点)から7年(軽自動車は5年)以上経過しているものについては、便宜上財産価値なしとして、処分する必要はありません。
したがって、長年乗り続けているような場合は、ほとんど処分の対象にはならず、そのまま乗り続けることが可能です。
では、ローンがまだ残っているという場合はどうでしょうか?
②車検証上の所有者は誰か?
自動車ローンを組んで購入している場合、ローン完済までは車検証上の所有者(使用者ではありません)がローン会社になっているケースがほとんどです。この場合、ローン完済までは、法律上の所有権はローン会社にあり、完済して初めて、晴れて本人名義になります(名義変更書類をローン会社が送ってきます)。
そのため、ローンの途中で債務整理をすると、ローン会社は、まずは自分のモノである自動車を引き揚げて換価します。この場合は、残念ながら自動車は失うことになります。
ただし、中古車などでローン金額が多額でない場合や、JAなどの一部の自動車ローンは、購入時にローン会社名義ではなく、本人名義にしている場合もあります。この場合は、ローンが残っていたとしても、所有権は本人にあるので、①と同様、処分しなくても良い可能性があります。
③親族等の援助は可能か?
不幸にして、所有者はローン会社名義になっており、ローンもまだ残っているという場合でも、親族等でローンを肩代わりできる人がいる場合は、手放さなくても良い可能性はあります。すなわち、援助で自動車ローンを完済し、その方の名義に変更した上で、自動車自体は借りて使っているという状態にすることで、処分を免れることができるかもしれません。
ただしこれは、援助してくれる人間が周りにいることが条件になりますので、誰でも可能というわけではありませんが…
それ以外にも、場合によっては他の家族名義で安価な中古車を購入してそちらに乗り換えたりすることも可能かもしれません。
都市部に住んでいると、自動車はなくても十分に生活はできますが、いざ乗り出すとなかなか手放すことができなかったり、そもそも生活や仕事に欠かせないという場合もあります。そういった場合でも、状況次第では自動車を手放すことなく借金を整理できる可能性は十分にありますので、整理に踏み切りたいけど自動車がネックだという方は、1度専門家にご相談してみることをお勧めします。
とはいえ、もしも、「銀行への最終支払い日からは5年経過しているが、代位弁済からはぎりぎりまだ5年経過していない」といったケースの場合は注意が必要です(下手に時効援用したところ、実はまだ時効期間が経過しておらず、反対に裁判をされたといったことになりかねません)。
保証会社による代位弁済と大きく異なるのは、延滞から数ヶ月程度で債権譲渡されることはまずない、という点です。数ヶ月どころか、数年経って忘れた頃に譲渡されるケースも良くあります。この場合は、たとえ譲渡から数ヶ月しか経っていなくても、もとの債権者に最後に支払ってから5年経過していれば、時効を援用できる可能性があります。
前回の記事で、債権譲渡時点で過払いが発生していても、譲受会社(B社)は当然にはその過払いを承継しない、という話をしました。
そこでよくある例として、譲渡会社であるA社にはほとんどお金がなく、B社にお金があったとしても、A社に対しての過払いを、B社に請求はできないケースが多いと説明しました。
では逆に、「A社にはお金があるが、B社にはお金がない場合」はどうでしょうか?
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・▲30万円)
↓
A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
その後、さらにB社に対して合計10万円を支払った。
前回の記事の理屈でいうと、A社に対しては譲渡時点での過払い分として30万円、B社に対しては譲渡以後に支払った分として10万円をそれぞれ請求できることになります。
しかし、A社とB社との間の債権譲渡契約で、
「本件の過払いについては全てB社が責任を負う」
という定めがあるとしたらどうでしょうか?
前回の最高裁判所の判断は、
「B社が過払いを引き継ぐかどうかは、A社とB社の契約内容次第で、原則は引き継がない。」
といった趣旨のものでした。
これを逆手にとって、お金のないB社に債権譲渡して、「過払いも全部B社が責任持ちますよ」などという契約を結ばれてしまった場合、(お金のない)B社に対してしか請求ができず、(お金のある)A社には請求できなくなってしまいます。
実際に、一部の業者間では上記のような債権譲渡が行われています。表面上はつながりがないように見えても、実は裏でつながっているB社に対して、過払いとなっている取引を譲渡し、譲渡契約の内容を盾に、A社は責任を負わないと主張してきます。
B社はほとんどペーパーカンパニーのような会社で、そもそもB社名義での財産は存在しないか上手く隠しているため、B社に対して裁判しようが差し押さえしようが回収は困難、事実上、A社とB社で結託して、過払い金を踏み倒しているようなものです。
しかしながら、こんなことが許されていいはずがありません。体のいいトカゲの尻尾切りのようなものです。こんなことが認められてしまうと、貸金業者は次から次へと実は過払いになっている取引を別会社に譲渡し、その会社に過払いの責任も負うという契約内容を作り上げて、責任逃れに走ってしまうことになります。
現在、まさに上記のようなご相談を頂いています。
当然許しがたい行為なので、なんとかして責任を負わせるべく訴訟の準備中です。結果は追ってご連絡させて頂きます。
過払い訴訟の争点の1つに「債権譲渡」があります。
ある会社との取引が利息制限法超過利率での取引だった場合、取引途中でその債権が別の会社に譲渡されたというケースにおいて、譲受会社にいくら支払わなければならないか、途中で過払いになった場合に、どちらの会社に請求ができるか、といった問題です。
この問題は、債権譲渡時点において、取引がすでに過払いになっていたか否かで大きく変わってきます。以下、もともと取引のある会社をA社、A社から債権譲渡を受けた会社をB社として説明します。
①債権譲渡時点で、引き直しても過払いにならない場合
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・20万円)
↓
A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
上記のケースを考えてみましょう。
ほとんどの貸金業者は、わざわざ自分で引き直し計算をすることはありません(過払いを知らない人、取れる人からは取っておけ、という考えでしょうか)。そのため、引き直せば20万円しか残っていないことを知っていながらも、約定残高50万円をB社に譲渡したので、これからは50万円(+利息)をB社に支払うように、という通知を送ってきます。
この場合、仮に債権譲渡が絡んでいたとしても、A社との取引を引き直し計算すれば、債権譲渡の時点での有効な借入残高は20万円ですから、B社が有効に取得できるのも20万円だけです。
よって、A社との取引部分も含めて、一連で引き直し計算することが可能です。
②債権譲渡時点で、引き直せば過払いだった場合
(例)
債権譲渡時点での約定残高・・・50万円
(同時点での引き直し計算後残高・・・▲30万円)
↓
A社からB社に、約定残高50万円で債権譲渡する旨の通知が来た。
その後、さらにB社に対して合計20万円を支払った。
それでは、上記のケースではどうでしょうか?
債権譲渡時点ですでに過払いだった分(▲30万円)について、B社が引き継ぐのかどうかが問題になります。
仮にB社が引き継ぐとすれば、B社に対して、譲渡時点での過払い分▲30万円と、譲渡後に支払った分20万円を併せて、50万円を請求できることになります。
B社が▲30万円を引き継がないとすれば、B社に請求できるのは譲渡後に支払った20万円のみであり、▲30万円はA社に対して請求するということになります。
結局どちらかに対して請求できるのであれば大差ないようにも思えますが、問題は、債権譲渡が絡む事案では、A社かB社のいずれかにはほとんど資力がないケースが多い、ということです。過去の事例の多くは、譲渡会社であるA社にはほとんどお金がなく、A社に対して返してくれと言っても返してくれない、裁判して判決とっても差し押さえる財産がない、というようなケースでした。
つまり、A社にお金がない、という事情を鑑みると、B社がまとめて返してほしい(B社が債権譲渡時点での過払いを承継してほしい)ということになります。
しかし、この点について、最高裁判所は、『B社が当然に過払いまでは承継しない』という判断を下しました。
【最高裁平成23年3月22日判決】
貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできない。
つまり、債権譲渡の場合に過払いまで承継するかどうかは、A社とB社の譲渡契約の内容次第であって、原則的には(当然には)B社は過払いを承継しない、とされたわけです。この判断の是非は置いておいたとして、現実的には、これにより、A社に対して発生していた過払い金を、B社に対して請求することは非常に難しくなってしまいました。上記の例でいうと、(お金のある)B社からはなんとか20万円回収できたけども、(お金のない)A社からは回収ができなかった、というケースが非常に増えてしまったわけです。
しかし、問題はこれだけでは終わりません。
長くなりましたので、続きは次回の記事とします。
これで通常裁判に移行することになりますが、訴訟代理も含めての依頼でしたので、当方が代わりにに裁判所に行って交渉可能です。通常訴訟期日までにはまだ時間がありますので、当日までに、依頼者の家計状況を精査して、現実的かつ誠意ある内容の和解案をもって債権者との交渉に臨みたいと思います。
・たしかに、契約時に連帯保証人本人と面談した記録はないが、署名と実印、印鑑証明書の提出があったため、十分な証拠となる。
・契約後、主債務者からの返済が始まった際に、連帯保証人に電話で確認しているはず。
・契約後、主債務者からの返済が遅延した際(依頼者が自己破産するより以前)に、連帯保証人に手紙を送っているので、その時点で保証債務の存在を認識できたはず。
お金が返ってくるような裁判であれば、事後的に回収額の中から報酬を頂くことも可能ですが、今回のようなケースでは、仮に裁判に勝ったとしても、依頼者本人の手元には1円も入ってきません。そのため、極力コストをかけずになんとかしてほしいというのは自然な感情だと思います。