印鑑の無断使用と免責の効力①

先日、平成20年に前職の事務所で自己破産された方がご相談に来られました。聞くと、自己破産して以降に、連帯保証債務の請求が来ている、とのことです。ざっくりと状況を書くと、下記のような感じでした。

 

・平成8年に、前妻の姉の子どもの就学費用を借入れする際に、連帯保証人として契約。
ただし、この契約は、前妻が実印を冒用(無断使用)して作成されており、相談者は全く知らなかった。契約書の筆跡も明らかに本人とは異なっており、複数口ある契約書間での筆跡すら異なっている。

 

・平成20年に自己破産。この時点では、上記連帯保証債務の請求は来ておらず、相談者は保証の事実すら知らないため、債権者として申告していない

・平成24年以降、前妻の姉が支払い不能になったことを理由に、保証債務の請求が来るようになる。自己破産した事実を伝えるも、債権者一覧に記載がなかったことを理由に請求を止めない。

※実際のケースをアレンジしています。

 

さて、このような場合、相談者に支払い義務はあるのでしょうか?
ポイントは2つ、①印鑑の冒用(無断使用)による契約の有効性と②破産時に債権者一覧に記載していない債権の免責性です。

 

まず、①について、相談者は、前妻との婚姻期間において、(今思えば)前妻が実印を持ち出せる状況にあったことを認めています。おそらく事実は、前妻が実の姉に協力する形で、勝手に相談者を連帯保証人として記載し、契約させたものと思われます。なお、前妻は平成15年に他界しており、その姉とも一切音信不通であるため、確認はとりようがありません。

 

日本の取引においては、古くから、署名よりも、押印の方がより重要であるとされてきました(印鑑の文化)。それだけに、印艦は、よほど深く信頼している人に対してでなければ預けることはなく、一旦預けた以上、預けられた者のなした行為が、本当は代理権なくしてなされた場合でも、預け主は、その責任を負わなければならない場合は存在します。特にそれは、認印を用いた場合よりも実印を用いた場合にそうであることはいうまでもありません。

 

今回は、前妻が相談者の実印を使用していますが、本人が積極的に前妻に「預けた」という事実はありません。このあたりは、当時の前妻との関係や実印の保管状況にもよると思うので、微妙なところですが、印鑑証明書まで取得されているため、貸主側が、その者が権限ある者であるという外観を信頼することが無理もないという事情があれば、表見代理によって相談者にもに責任が及ぶ場合があります。すなわち、当時の状況次第では、相談者が責任を負う可能性もあります。

 

ただし、いくら実印と印鑑証明書があるからといって、同時期に作成された複数口の契約書において、契約書ごとに筆跡が異なっているにもかかわらず、その保証人に対して面前はおろか電話での本人確認も行っていないということになれば、その点については、貸主側にも落ち度があったというべきでしょう(当時は今よりもはるかにそのあたりの規定は緩かったのかもしれませんが)。

 

次に、②についてですが、破産当時に債権者と挙げていなかった債権の取扱いについては、破産法に明記されています(破産法253条1項6号)。

 

・破産者が、その債権の存在を知りながら、敢えて債権者名簿に記載しなかった場合

免責されない

・破産者が、その債権の存在を知らなかったために、債権者名簿に記載できなかった場合(破産者に過失がある場合含む)

免責される

・債権者名簿に記載がない場合でも、債権者が破産の事実を知っていた場合

免責される

つまり、まとめると、

破産者が債権の存在を知おり、かつ、債権者が破産の事実を知らなかった  免責されない

 

それ以外 → 免責される

 

となります。

 

今回のケースでは、①の部分だけで、連帯保証契約の無効を主張することもできなくはないと思いますが、当時の詳しい状況証拠の積み重ねは必要になるでしょう。その際に、当事者である前妻がすでに亡くなっており、契約から20年近くが経過しているため、当時の貸主側の担当者も不明となれば、なかなか難しいかもしれません。

 

しかし、②も加えて考えると、そもそもの連帯保証契約自体、本人の預かり知らぬところでなされたものですから、破産当時、請求、督促が来ていなかったのであれば、相談者が債権の存在を知らなくてもやむを得ないというべきです。したがって、債権者名簿に載せなかったことが故意であるとは到底言えないため、自己破産による免責の効力は及ぶというべきでしょう。つまり、2つの事情を合わせて考えれば、いわば合わせ技で免責にもっていけるのではないかと思っています。

 

この件については、請求額も130万円近くであり、相談者にとっても決して少ない額ではありません。また、詳しくは書けませんが、相手が相手なだけに、きっちりと話をつけておく必要があります。交渉で折り合いがつかなければ、最悪は債務不存在確認訴訟を起こすことになるかもしれません。今後進展があれば、可能な範囲でご報告したいと思います。
→進展がありましたので追記しました。

 

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直接面談の重要性

今日は新規の債務整理のご相談で加古川まで行ってきました。

 

以前からご相談は頂いていたのですが、ご主人様名義でのカード利用であったため、ご主人様と面談した上での受任が必要になると頃、どうしてもご主人様の了解が得られないとのことで保留になっていた件でした。

 

なんとかご主人様に話ができ、司法書士との面談についてもご了承を頂けたため、ご自宅まで出張した上で面談をさせて頂き、晴れて受任となりました。想定される内容からすると、あとはこちらで代理交渉等で進められそうなので、受任後のご本人様、ご家族のご負担はほぼないと思います。奥様もお気持ちがすっきりされたとのこと。おそらく相当頑張ってご主人様を説得されたのでしょう。

 

ご家族の方名義での借入れやカードのご利用に関するご相談はしばしばあります。そして、その多くは、名義人本人は借入れの事実や詳細を知らないので、自分(相談者であるご家族)が代理人となって、本人には内緒で手続をお願いしたい、というものです。

 

実際に、カードを作成して以降は全部ご家族の方が利用し、支払いもご家族の方がしているのだから、名義人は関係ない、というお気持ちも分からなくはありません。しかし、司法書士が手続きを受任する際には、あくまでカードの名義人ご本人様の代理人として手続きを進めますので、名義人の方からのご依頼を頂く必要があります。代理人との面談での受任はできませんし、もしそれを行っている事務所があれば、依頼者本人との直接面談を義務付けた、日本司法書士会連合会の通達に違反していることになります。電話や郵送だけでの受任を行っている事務所も同様です。

 

私は、前事務所時代から、名義人本人との面談を省略して受任をしたことは1度もありません(上記の通達で直接面談が義務付けられる前からそうしています)。そのため、そのこと(名義人本人との面談ができないこと)を理由に、受任をお断りせざるをえなかったケースも多々あります。しかし、後日のトラブルを避け、直接の依頼者であるご本人様に、手続きについてご理解、ご納得頂くためには、やむを得ないことだと思っています。

 

なお、1度面談をし、受任をした際に、ご本人様の意思で、今後の連絡窓口として、ご家族の方等を指定されることは全く問題ありません。今回のケースでも、今後の連絡窓口として奥様をご指定されました。したがって、ご主人様にして頂いたことは、司法書士との面談だけです。面談と言っても、手続きについて説明するのは司法書士ですから、ご本人様の分からない事情を問い詰めたり詰問したりすることはありません。奥様の方が事情をご存じということであれば、詳しい事情は奥様からお伺いさせて頂きます。

 

また、特に債務整理については、誤った認識や知識をもとに、ご家族に話ができない、迷惑がかかる、と思われている方は大勢いらっしゃいます。しかし、実際にはご家族の方に迷惑がかかることなどなかったり、それどころか、ご本人様にさえ、ほとんどデメリットがないケースも数多くあります。迷惑がかかるから絶対に話せない、と決めつけてしまう前に、本当にそうなのか、専門家に1度ご相談されてみてはいかがでしょうか?

 

※なお、当事務所では、事情により事務所へのご来所が困難な方につきましては、司法書士がお近くまで出張の上、面談をさせて頂いております。遠方の方や、外出が困難な方につきましても、お気軽にお申し付けください。

 

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異業種交流

先月から、成年後見や遺言の作成を主とする高齢者支援のための任意団体である、任意後見支援センター「あどみ」に参加させて頂いています。

この団体は、行政書士の先生方をメインとした任意団体なのですが、中には税理士や社会保険労務士、海事代理士、社会福祉士の方などもいらっしゃって(皆さん行政書士としても登録、活躍なさっている方々です)、非常に参考になる話を聞くことができます。私自身は、行政書士試験には合格しているものの、行政書士としての登録はまだ行っていませんが、現会長のご厚意で、先月から入会させて頂きました。

 

今週の定例会では、税理士の先生から、相続税についての講演をして頂き、参考になる部分も多々ありました。その他、実務での事例報告や、行政書士業務における報酬体系のあり方についても議論がなされ、司法書士としての立場からも、僭越ながら私見を述べさせていただきました。次回は相続と不動産登記をテーマにした講演を打診されており、どうなることかと今から緊張していますが・・・(苦笑)

 

定例会は、20名ほどの参加で、和気藹々とした雰囲気で行われていますので、若輩かつ新参の私でも気兼ねなく発言することができます。
行政書士と司法書士は、名称が似ていることもあり、一般の方にはよく混同されがちです(残念ながら、名称としての知名度は、司法書士は行政書士に劣っていると感じることもしばしば・・・)。また、「何が違うの?」といったご質問もよく受けます。違いをここで書くと長くなるので省略しますが、微妙に違うんです(苦笑)。ただし、隣接業種には違いないため、司法書士の業務を行う際に、行政書士の先生にお願いすることもあり、また、その逆もあります。司法書士と行政書士のダブルライセンスで事務所を運営されている方も大勢いらっしゃいます。

 
私は行政書士登録をしていないため、行政書士実務については未経験であり、このような会に参加させてもらって話を聞くだけで非常に参考になります。普段これだけ多くの行政書士の方々と接する機会もあまりなく、行政書士もそれぞれ得意分野が様々であるため、今後も多くの先生と、お互いにプラスになる関係を築いていければと思っています。

 
一般の方には、自分の相談が果たしてどの専門家の分野になるのかよくわからない、という方も大勢いらっしゃると思います。ご依頼、ご相談の中で、行政書士、税理士、社労士、弁護士など他業種の先生方のサポートが必要と判断した場合は、責任をもって間違いのない先生をご紹介させて頂きますので、安心してご相談ください。

 

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遺言検認期日に同行して

先日、以前からご依頼頂いていた方の自筆証書遺言の検認申立期日に同行してきました。

 

依頼者の方は、故人とは血縁関係はなく、故人の生前に、約20年間にわたって身の周りのお世話をされてきた方でした。故人の遺品を整理していたところ、自筆での遺言書を発見し、封筒の封印がされていなかったため、内容を確認すると、依頼者の方への感謝の気持ちと、財産全てを任せる、という内容でした。

 

 

故人からは、生前、自分には身寄りはいないと聞いていたそうですが、検認申立に際して相続人を調査したところ、90代の妹さんがお1人と、50代の甥にあたる方がお2人いらっしゃいました。幸いなことに、甥の方とは事前に連絡が取れ、状況を説明することができ、遺言の内容については口出しする気はないとのご返事を頂いていました。もう1人の妹さんについては、かなりのご高齢ということもあって、事前の連絡は取れなかったのですが、検認期日には、この方の後見人である社会福祉士さんが来られていました。ご本人は施設に入居されており、後見人の方も、お兄さん(故人)の存在については聞いていたものの、探すことは諦めていた、とのことでした。

 

 

甥のお2人は検認期日は欠席されていたため、依頼者の方と、後見人の方の立会いのもと、検認自体は滞りなく行われ、無事遺言書に検認調書を合綴して頂きました。

 

 

その後、後見人の方から、故人の妹さんは、調子が良ければ多少の会話はできる状態とのことで、できたら故人の生前の様子を聞かせて頂きたいとのことで、依頼者の方とあれこれといろんなお話をされていました。   依頼者の方も、「故人からは家族はいないと聞いていた。それでも実際にはこうやって、間接的ではあるものの、故人と血のつながりのある方に、故人についてのお話をすることができて本当に良かった。他人である自分だけが知っているよりも、やはりご家族の方に知って頂きたいという気持ちはずっとあった。」とおっしゃっていましたし、後見人の方からも、「妹さんに良い報告ができそうです。今日は来て良かったです。」とおっしゃって頂きました。

 

 

自筆証書遺言は、手軽に作成できる反面、今回のように、検認手続きやそれに先立っての相続人調査(今回取得した戸籍謄本は、計40通ほどにもなりました)など、残されたご家族の方への負担が大きく、できることなら遺言書は公正証書での作成をお勧めしています。しかし、今回に限って言えば、公正証書遺言であれば、他の相続人の方に連絡をとることはなかったかもしれません。そうなると、受遺者である相談者の方にも、どこか少しばかりの心のしこりが残っていたかもしれません。故人の望むところであったかどうかは知る由もありませんが、結果的には、ご家族との多少の接点のきっかけとなり、良かったのではないかと思います。

 

 

なお、今回作成されていた自筆証書遺言は、法律上の要件をすべて充たしていたため問題ありませんでしたが、記載内容や様式によっては、遺言自体が無効とされるケースもあります。たとえ自筆といえども、遺言書を作成される際には、内容、様式について問題がないかどうか、専門家にご相談されることをお勧めします。   メールボタン2

元気なうちの「終活」

今日は、以前から遺言書作成のご相談をいただいている依頼者の方と一緒に、葬儀会社との打ち合わせに行ってきました。

この方は、不幸にも3年ほど前にご子息を亡くしてしまい、以後おひとりで暮らしています。ごきょうだいはいらっしゃいますが、すでに亡くなっている方や、もう何十年も会っていない方たちで、決して近い関係ではありません。

 
幸いにもお身体はお元気で、毎日のように近所の気の合うご友人たちと食事に行ったり出かけられたりされていますが、いかんせんご年齢のこともあり、自分の今後について、周りに迷惑をかけたくない、とのことでご相談に来られました。

 

ご本人としては、わずかばかりの財産しかないが、もし自分に何かあったら、その時に残っているお金や預貯金は、身の回りで本当に良くしてくれている友人のうち数人で分けてほしい、とのことでした。また、ご自身のご葬儀についても希望があり、最終的には、ご子息と同じ方法で供養してほしいとのことでした。

 

この方の場合、このまま万が一のことがあれば、相続人はごきょうだいの方たちになります。もし、ごきょうだいが先に亡くなられている場合にはその子どもたち、つまりご本人からみると甥、姪になります。そのため、ご本人の希望を叶えるためには、遺言を作成していただくしかありません。きちんとした遺言書があれば、ごきょうだいや甥、姪には遺留分はありませんから、相続財産は希望通りにご友人たちに引き継ぐことができます。

 

このようなご希望はあらかじめ常日頃からご友人には伝えていらっしゃったので、再度ご友人の方々にその旨(受遺の意思があるかどうか)の確認をした上で、相続財産をご友人に遺贈するという内容の公正証書遺言を作成することとなりました。

 
また、葬儀については、あらかじめ葬儀社と綿密に打ち合わせをした上で、喪主となってくれるご友人の方と、死後の事務委任契約を締結する方向で話がまとまりそうです。

 

死後の事務委任契約とは・・・
通常の委任契約の場合、委任者(ここでいう依頼者ご本人)が亡くなると、委任契約は効力を失ってしまうため、ご自身の死後のこと(葬儀、法要など)をお願いしていても、法律的には協力を持ちません。その点、死後の事務委任契約は、あらかじめ委任者の死亡によって効力を失わない旨を定めておくことで、ご自身の亡くなられた後のことについても、契約としての法的効力を持たせることが可能です。

 
葬儀社と葬儀の規模や段取り、費用の打ち合わせが終わり、おおよその目途がついたとのことで、依頼者の方が「これで安心した。いつでも思い残すことなく逝けますわ。」と言って晴れやかに笑っていらっしゃったのが印象的でした。

 

 

遺言や相続といった、「死」にまつわる話題は、とかくタブー視されがちです。ご本人ではなく、ご家族の方から「本当はきちんと遺言書を書いておいてほしいんだけど…」といった相談も数多くあります。しかし、その多くは、「こちら(家族)の方からは言い出しにくいので…」という結論に至ってしまいます。たしかに、僕も自分の親に向かって、「そろそろ遺言でも書いといてくれ」とはなかなか言いにくいので、難しいところではありますが・・・

 
遺言や死後の事務委任は、言ってしまえばご本人様の人生最後の希望、お願いです。元気なうちにそれを形にしておけば、もし万が一のことがあっても、ご本人様はもとより、残されたご家族の方も本当に助かるケースがほとんどなのです。そして、万が一のことがなく、その後も健康で長生きされるのであれば、それに越したことはありません。言ってしまえば、これらのいわゆる「終活」は、人生の保険のようなものです。元気なうちに準備しておくことが大切で、「いつでもできる」と思っているうちに、いざ病気になった後に「保険に入ろう」「入っておけばよかった」と思ってももう手遅れ、ということも十分に考えられるのです。

 
そして、単純なようで意外に複雑な相続。きちんとした準備をしておかなければ、なかなかご本人様の思うようにはいかないケースは本当に多いのです。

 

「うちは親族仲がいいから大丈夫」
「身内で文句を言う奴なんかいないから」

 

と思っていても、実際にお金や生活が絡んでくると、なかなかそれまでの関係通りにはいかないものです。

 

使い古された言い方ですが、「相続」が「争続」にならないために、事前の備えをきちんと行い、安心して余生を過ごされてほしいと思います。

 

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個人再生のススメ

「利息の見直し」「過払い金」という言葉が広く知られるようになってはや数年。一時期ほどの過払いバブルの状態は影をひそめるようになってきました。

 

というのも、貸金業法の改正に伴って、多くの貸金業者は、平成20年前後に金利を引き下げしたため、それ以降に借り入れをした方については、最初から利息制限法の制限利率以下での借り入れとなるため、そもそも過払い金が発生しなくなったからです。
過払い金が発生する仕組みは、利息制限法の上限利率を超える金利を設定していた業者について、利息制限法の制限利率で引き直し計算をすることで、払い過ぎた利息が生じることにあります。そのため、最初から利息制限法の制限利率より低い金利で借り入れている場合は、引き直し計算自体をする余地がありません。
言ってしまえば、ここ5年以内での借り入れの方については、過払い金はまず発生しないと思ったほうが良いでしょう。
しかし、他方で過払い金という言葉が世間に浸透しすぎてしまったために、ここ数年の取引であっても、「過払いになっていますか?」「借金は減りますか?」というお問い合わせはたくさんいただきます。その場合には、残念ながら過払いはありませんという返答をせざるを得ないのですが、借金を減らすということについては、個人再生という方法が非常に有効です。
個人再生についての詳細はホームページをご覧いただきたいのですが、簡単に言うと、裁判所の許可を得て、借金を最大で80%カットするという、非常に強力な手続きです。さらに残った20%については、利息をカットして3年間で分割返済すれば良いため、金銭的な負担ははるかに軽くなります。
裁判所の許可が必要という点では、自己破産と同様なのですが、個人再生という手続きは、自己破産ほど一般的に認知されていません。しかし、状況次第ではこれほど有効な手続きは他にありません。
【個人再生のメリット】
住宅ローンがある方でも利用可能
現在住宅ローンを抱えている方で、住宅ローン以外にも借金がある場合、個人再生を利用することで、住宅ローン以外の借金を最大80%減額可能です。住宅ローンについてはそのまま支払いを続けていくため、住宅を手放す必要がありません
もちろん住宅ローンがない方でも利用可能です。

 

借り入れ原因についての審査がない
自己破産の場合、借り入れ原因について裁判所で審査があるため、浪費やギャンブルといった原因でできた借金については、認められない可能性があります。しかし、個人再生の場合、借り入れ原因を問わず利用することが可能です。

 

 

これらは非常に重要なポイントで、借金は払えない、かといって様々な事情(自宅を手放したくない、ギャンブルでできた借金である、自己破産すると仕事上の資格に影響してしまうなど)で自己破産はできない、という方にはもってこいの手続きといえます。
しかしながら、個人再生については、取り扱い実績の少なさなどの理由から、敬遠しがちな事務所も多いと聞きます。先日のご相談の方も、別の事務所で個人再生をお願いできないかと聞いたところ、「手続きが非常に煩雑で費用も高いからやめておいた方が良い」と、暗に断られたとのことでした(実際には、個人再生が最も適している状況でした)。
幸いなことに、個人的には、前事務所時代に数多くの個人再生事件を取り扱うことができましたし、中には相当複雑なものもありましたが、裁判所の許可が取れなかった案件は1件もありません。また、いずれの方も、個人再生を利用することで見事に生活を再建することができています。
これからは、いわゆる過払いや、任意整理での借金の減額はほとんど見込めなくなってきます。

その中で、個人再生という手続きは、今後より広く認知され、利用されていくことは間違いないと思います。
(住宅ローン以外の)借金が200万円を超えており、返済が苦しい。
借金はあるが、住宅は手放したくない。
借金の原因がギャンブル、浪費である。
自己破産だけは絶対にしたくない(できない)。
月3~4万円程度であれば何とか返済可能できる。
上記に当てはまる方は、個人再生で生活を劇的に改善できる可能性がありますので、ぜひ1度ご連絡ください。

 

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相続登記を放置すると…

本日相続登記の相談で来られた依頼者の方。田舎にずいぶん長いこと名義を変えていない土地があるので、名義変更をお願いしたいとのこと。

聞くと、お父様が亡くなられたのをきっかけに、田舎の不動産を整理したいと考えたらしいのですが、その際に、お祖父様以前の名義になったままのものがあったとのこと。それもできれば一緒にやってしまいたいとのことでしたので、お持ち頂いた資料をもとに、登記簿謄本を確認したところ…

 

tohon
明治22年1月22日登記
原因 遺産相続により
(以下省略)
との記載が…

なんと、ここに記載された所有者の方は、依頼者(50代)のお祖父様どころか、そのお祖父様、つまり、依頼者の方からみると、4代も前の方(曾祖父の父なので、高祖父といいます)だったのです。明治22年というと、西暦1889年ですから、今からなんと130年近く前、当時この方が30歳とすると、生まれは当然江戸時代ということになります。依頼者の方も、全く名前を聞いたことがない、もはやご先祖様というに近い方の名義のままになっていました。
さすがに4代前からとなると、依頼者の方も、相続関係すら把握できておらず、相続人が何人になるのか、見当もつきません。

大正~昭和初期の頃は、たいていごきょうだいが多く、戦争等で若くしてお亡くなりになる方も多かったため、養子縁組なども頻繁に行われていた時代です。実際に、依頼者のお父様は6人きょうだい、お祖父様は7人きょうだいであったとのことです。今回のケースでは、さらにそこから2代もさかのぼらなければならず、当然数次相続もかなりの数発生しているでしょうから、おそらく現時点での相続人の数は、少なく見積もっても数十人、下手をすれば100人を超えることも考えられます。

 

こうなってしまうと、それらの方々全員を探し出し、連絡を取り、事情を説明し、納得してもらって印鑑をもらう、というのは、現実的には不可能に近いと言わざるを得ません。しかし、仮にこの不動産を売却等される際には、亡くなった方の名義のままでは売れませんから、現行法上は、必ず相続登記が必要になります。それが事実上不可能となると、結局どうすることもできなくなってしまいます。

 

また、別の不動産には、大正初期に設定された抵当権がそのまま残っており(大正2年設定、債権額金110円)、おそらくこれも抹消するとなると、休眠担保権の抹消の手続きをとらざるを得ません(不可能ではありませんが、供託等が必要になり、別途費用が発生します)。

 

費用がどれぐらいかかるかをご心配されていましたが、正直なところ、なかなかすぐに費用の概算を出すことすら難しいケースであるというお答えしかできませんでした。

※相続関係が複雑すぎるため、手続きに必要な戸籍等を収集するだけでも膨大な数にのぼることが予想され、かつ、一部の相続人とは連絡すらつかない可能性も十分に考えられるため。
幸いにも、今すぐにご売却の予定があるというわけではないとのことでしたので(というか、今すぐの売却は不可能ですが…)、上記を説明した上で、いったんご検討いただくことになりました。
不動産登記制度は、明治5年に「地所永代売買解禁」の布告によって、土地の所有が認められたときにはじまり、明治19年に制定された旧登記法に基づく制度です。そのため、今回のケースなどは、登記法制定初期の頃に登記されて以降、ほぼそのまま放置されていたことになります。

 

これが建物であれば、取り壊すことが可能ですから、相続登記をしないまま取り壊して滅失ということも不可能ではありません。しかし、土地は半永久的になくなるものではないため、どこかで相続登記をしない限りはどうすることもできません。しかし、それが現実的に不可能となると…

 
おそらく今後、地方を中心にこういった事態は増えてくると思います。その時に、資産流通性を重視して、現行の相続登記を省略・簡便化するような手続きを認めざるを得ないという時代が来るかもしれませんが…
何はともあれ、今回のケースほどではないにしろ、相続登記を放置すると、いざという時には手続きが非常に困難で、時間も費用もかかる、という事態になる可能性は十分にあります。身近に、実態に即していない名義のままになっている不動産がある場合は、お早目に司法書士にご相談されることをお勧めします。

 

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※今回の記事は、写真も含めて、依頼者の方のご承諾を頂いた上で公開させて頂きました。

相続と不動産④相続した不動産を売却したい

ご実家に住まわれていたご両親が亡くなって、もとのご実家が空家になってしまうケースはよくあります。特に近年、このような空き家の問題が深刻化してきています。平成26年のデータによると、日本全国の空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は13.5%となり、過去最高の数字です。

 

先日の記事にも書きましたが、住宅用の底地については、固定資産税が軽減されます。これはあくまで住宅が存在しているがゆえに受けられる軽減措置であって、建物を取り壊して更地にしてしまうと、軽減措置を受けることができなくなり、結果的に、固定資産税が実に6倍にも跳ね上がることになってしまいます。そのため、固定資産税の軽減を受け続けるために、空き家になっても取り壊しをせずに放置するケースが増えているのです。

 

しかし、放置していると、どんどん家は傷んでいきますし、近隣住民の迷惑にもなりかねません。また、減額されているとはいえ、誰も住まない家の固定資産税を支払い続けることにもなりますので、継続的な管理が難しいようであれば、相続を機に売却を考えられることも選択肢の一つでしょう。

 

ただし、相続した不動産の売却には、いくつか注意すべき点もあります。

 

まず、あらかじめ相続登記が必要になります。亡くなった方の名義のままでは売却することができません。相続登記に際しては、相続人の調査や話し合い(遺産分割協議)、相続人全員の実印などが必要になる場合が多く、相続人同士が遠方に住んでいる場合などは、なかなか話し合いをする機会がないということもあって、手続きが進みにくくなってしまいます。

 

また、売却を検討されるということは、そこに住む人がいない(=相続人の自宅が遠方である)ケースが多いため、一体どこの不動産業者に依頼すればいいのかもわかりません。

 

さらに、売却して得られた利益には、譲渡所得税がかかってくるケースが多いですから、そのための確定申告も必要になります。この際、 相続人が所有者として居住の用に供したことがある建物の譲渡については、3000万円の居住用不動産の譲渡に関する特別控除を受けられる可能性もあるため、どなた名義に変更してから売却するかは重要なポイントになります。もちろん、これ以外にも、前回からお話ししている相続税の問題や、場合によっては特例措置を適用することも検討すべきかもしれません。

 

このように、相続に際して、不動産が対象となるケースは非常に多いのですが、その中で検討すべき事項は多岐にわたります。当事務所では、安心して売却を任せられる不動産業者や、相続税の申告等にも長けた税理士の先生のサポートも受けながら、依頼者の方が満足できるサービスをご提案させて頂きます。すでに相続が発生したが、何をどうしていいか分からない、将来の相続に備えて話を聞いてほしいといった方も、安心してご相談下さい。

 

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相続と不動産③相続不動産の評価を減らす方法(自宅)

相続財産に、自宅の土地が含まれている場合、一定の条件を満たせば、土地の相続税評価額を、なんと最大で80%引き下げることが可能です。

これは、「小規模宅地等の特例」という制度で、「特定居住用宅地等」に該当した場合、330㎡までが現在の対象になるというもので、その減税率は80%と、非常に効果の高いものです。

(例)

路線価=20万円、土地の広さ=200㎡の居住用土地の場合

通常の相続税評価額・・・20万円×200㎡=4000万円

↓特例を利用すると…

4000万円×80%=3200万円 が減額され、評価額は

4000万円-3200万円=800万円 となります。

 

いかに特例の効果が大きいかお分かりになるかと思います。減税額が非常に大きいため、この制度を利用することで、トータルとして相続税の対象ではなくなるというケースも多いのではないでしょうか?

 

では、この制度が利用できる要件をみていきましょう。

居住用の宅地であること

対象は、被相続人(亡くなった方)が直前まで住んでいた自宅の底地(=居住用宅地)です。

一定の要件に該当する親族が取得すること

以下のいずれかに該当すればOKです。

・宅地を取得する人が、配偶者である。

・宅地を取得する人が、同居の親族で、継続して保有かつ居住すること。

・宅地を取得する人が、生計を一にする親族で、継続して保有かつ居住すること。

・配偶者または同居の親族がいない場合、宅地を取得する人が、相続開始前3年以内に自分または配偶者が保有する家屋に居住したことがない親族で、継続して保有すること。

 

一見するとややこしいようですが、要するに、

被相続人が居住していた自宅を、親族が相続して引き続き居住する場合

において、利用できる可能性が高い制度であるということです。どうですか?こういわれると、比較的当てはまるケースは多いように思いませんか?

 

逆に考えると、(あまりないケースかもしれませんが)その家に居住しない相続人の名義にしてしまった場合、この特例は利用することができないということになります。

 

上記の通り、非常に利用価値の高い特例であるため、1つの考え方としては、この特例を念頭に置いて、問題なく特例が利用できるように相続させるための遺言をあらかじめ作成しておくということも、1つの相続税対策といえるかもしれません。

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相続と不動産②相続対象不動産の評価について

ホームページの記事でも紹介したように、不動産にはいくつもの「価格」があると言われます。

このうち、不動産(土地)に関する相続税を算出する際に用いられるのは原則として路線価です。

 

※路線価とは・・・基本的に、自分の不動産(土地)の目の前の道路には値段がつけられており(1㎡あたり○万円、といった感じ)、この価格は国税庁の路線価図で確認できます。この単価×土地の広さが、土地の相続税算出の際の評価額となります。

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(例)路線価=1㎡10万円、土地の広さ=200㎡

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→ 10万円×200=2000万円

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ただし、地方によっては、路線価が設定されていない地域もあります。

路線価が設定されていない地域においては、固定資産評価額に、各市区町村が定める評価倍率(宅地の場合、おおむね1.1倍とする地域が多いようです。)をかけたものを評価額とします。

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なお、路線価はあくまで土地を評価する際の基準なので、建物については固定資産評価額がそのまま評価額となります。建物については、消耗資産であるため、経年劣化とともに評価額は下がっていくことがほとんどですが、土地については、建物のように劣化するものではないため、必ずしも評価額は下がっていくとは限りません。むしろ、地価の上昇等により、評価額が上昇することもあり得ます。そのため、ある程度の広さの土地を所有している場合は、資産評価として決して無視できないような価格であることも多々あります。

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固定資産税は、評価額の1.4%を1年間4期分納が原則ですが、小規模住宅用地(200㎡までの住宅底地)については、6分の1とする軽減措置があるため、毎年の固定資産税はそこまで高額でなくても、評価額自体は思いのほか高い、という可能性もあります。

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なお、路線価にしろ固定資産評価額にしろ、実税価格よりも低い額となることがほとんどなので、一般的には、現金よりも不動産の方が相続税対策になる、と言われているのはこのためです。

 

※現金(預貯金)で2000万円所持したまま亡くなると、相続財産としての評価は丸々2000万円ですが、2000万円で不動産を購入していれば、その不動産の相続財産としての評価はそれよりも低い(例:1400万円)ことがほとんどなので、トータルとしての相続財産評価額を低く抑えることができます。

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路線価と固定資産評価額は、比較的簡単に調べることが可能です。

ご自身やご家族の相続に際して、相続税の対象となりそうなのか否かの目安にもなりますので、1度調べてみてはいかがでしょうか?

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※路線価と固定資産評価額を基準とするのは、あくまで相続税算出の際であって、遺産分割に際しての評価額は時価を基準とすることが多いので注意してください。

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